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第5章 パーティ!(11)
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――いよいよ、本番当日がやって来た。
ダンス・パーティは、放課後に行われる。授業が終わった後に、専用のバスに乗って、女子高生がわらわらと訪れるのだ。美術部中心に、歓迎ムードに校舎を装飾し、講堂へと案内する。――案内するのは勿論、生徒会役員と実行委員が中心だ。
この日は、授業が終わったらそれぞれがバタバタと準備をし始める。何のって、洋服だ。手芸部が死ぬ気で作った衣装を着られるのは、生徒会役員と一部の生徒のみで、後は自力で正装を調達しないといけない。まあ、お坊ちゃん方にはそんなこと、全然苦じゃないことなんだけれども。ちなみに、手芸部の血と汗と涙の結晶のドレスは、めでたく間に合って、女子高の生徒会役員の方々がしっかりと着こなしてくれている、筈だ。
俺も今日は、授業が終わったらすぐに手芸部に顔を出した。他の役員の面々も揃っている。
「あら、来たわね~」
前とは打って変わって、ご機嫌の花田前部長が出迎えてくれた。
俺より先に来ていた平良くんと剣菱くんが、早速着せ替え人形じみてタキシードを着せられている。
「いいわねえ、長身に映えるわ」
「やっぱり剣菱にはドレスの方が」
「ええー、俺男ですー……」
平良くんには黒が基調の、やっぱりどこか執事じみたタキシード。剣菱くんには、黒が基調の中にも裏地やラインにピンクの入った愛らしさを忘れないタキシード。剣菱くんの微調整をしている子が、改めて全身を眺めてしみじみと言っていた。
「でもいいじゃん、それもそれでかわいいよ」
「うっ、ありがとうございます……?」
「平良くんは相変わらず執事っぽくてかっこいいねー」
「ありがとうございます」
「じゃあ次は、鈴宮さんの番ですね!」
任せてください、と言わんばかりに、目が輝いた手芸部の子。……なんて言ったっけな、確か、丘くんだったかな。猫目にアヒル口が特徴の、かわいらしい子だ。
「イケメンにしてよねー」
「もちろんです!!」
おー、力強い頷き。
こうして俺も、着せ替え人形になるのだった。
渡された衣装を一枚ずつ着る。ワイシャツ、ジャケット、スラックス、ネクタイ、革靴。黒が基調の中で、俺のは何処かしらに黄色い差し色がされている。明るい印象だ。そしてちょっと、アイドルっぽい。裏地が黄色いネクタイを通しながら、大人しく髪の毛をセットされる。今回はそこまで込みで、手芸部の演出らしい。髪を留めているピンを取られ、逆にワックスで上げられる。デコだしオールバックは、新鮮だ。更に、白い手袋まで身につければ、完成、ってやつ。
「わー、鈴宮さん、かっこいいです」
「ホストみたい、ですね……」
一年二人の、素直な賞賛の声は、複雑だ。
ていうか、またホスト……。
「鈴宮さんホントかっこいいです大丈夫です!」
「まったく流は」
「ワンパタだね」
いつの間にやってきていたのか、既に着替えている双子が揃って肩を竦めるからイラっとする。
ちなみに双子も、黒を基調として、真白が銀、真尋が金のラインが入ったタキシード。髪の毛が横に流れているのも合わせて、悔しいが、随分サマになっている。
「早かったな」
「かっ、か、か、かわいいぞ剣菱ぃいい」
ドアが開いた途端に聞こえるのは、副会長の絶叫。
会長はそれを無視してどかどか中に入ってくる。
あ、目が合った。
「いいんじゃねえか、お前らしくて」
「そりゃあどーもー」
それってやっぱり複雑です。
でもまあ、会長のお着替えは楽しみだ。
丘くんも、待ってましたとばかりに、腕まくりをして息巻いている。
――会長はやっぱり、男前だ。
認めざるを得ないのは、黒を基調としたタキシードが、似合いすぎているから。
会長のはシンプルで、他の色は入っていない。
その分、高い身長や、長い手足、程良い筋肉が強調され、圧倒的な存在感だ。後ろに撫で付けられた黒髪も、上品さを醸し出している。高校生には見えない貫禄も、十分だ。
「か、か、かっこいいです会長抱いて」
「男前だね」
「流石だね」
「うん、かっこいいっす」
丘くんは目をハートにしているし、双子は顔を見合わせて頷いている。俺も何度か頷いた。
これはもう、引く手数多、ご指名ナンバーワンは間違いない、自慢の生徒会長様のできあがりだ。
「椎葉さんもかっこいいです」
平良くんのぼそっとした声に其方を向くと、出来上がった副会長の姿。
副会長は、臙脂色の濃いタキシードだ。長い髪を緩くまとめているが、気品が溢れ出ている。なんていうか、色っぽい。
「ふ、当然だろう。見ているか、剣菱」
「はっ、はい、素敵です」
「なんだって?」
「す、素敵、です」
「もう一回」
「しつこいぞ椎葉……」
剣菱くんからの褒め言葉に聞き入っている副会長を、珍しく会長が窘めた。確かにしつこい。
これで、役員全員、ばっちりお着替え完了だ。
「んーん、いいわあ! 皆、ばっちりお似合いよ! これで、我が校の名に恥じない生徒会の完成ね」
「ああ、準備、感謝する」
「本当にありがとうございましたー」
「死にそうになった甲斐がありました……」
あ、草野くんが本当に死にそうになっている。
ぐったりしながらも満足げな表情を見て、早くゆっくり休んで欲しいと思う俺だった。これ、手芸部の子たちに、出会い、あるのかな……。あるといいな……。
準備が万端になったので、お嬢様方をエスコートしに、校舎の外へと向かう。流石に北風が冷たいけれど、そんなことを気にしている場合ではない。今日は特別、バス停を飛び越えて、校舎の入り口傍まで、バスが入って来ることになっている。
時間が近付いてくると、三台のバスが連なって、お嬢様方を運んでくる。
今日は一年生が中心の日だから、バスから下りてくるのも、初々しいお嬢様方だ。
先頭には勿論、生徒会役員のお嬢様方の姿。
「今日は宜しくお願いするわ」
「お待ちしておりました」
金髪ちゃんは、丈の長い真っ赤なドレスを着ている。首元のネックレスと、頭に着けているティアラが眩しい。お姫様然としたその服装に違和感がないのは、自然の金髪の所為かな。
会長はわざとらしいほどの丁寧な口調で、金髪ちゃんの手を取った。生徒会長同士は、そうするのが例年の決まりらしい。悔しいけれど、随分、サマになっていた。お似合いの二人だと思う。
「アナタたち、行くわよ」
「はい、麗華様」
金髪ちゃんは後ろを振り返って、お嬢様方を促す。
その後ろに、水色のドレスを着た清楚ちゃん、濃い緑色のロングドレスに身を包んだイケメンちゃん、薄い黄色のドレスを着た薙刀ちゃん(勿論、俺を睨んでいるのは言うまでもない)、そして大きな胸を強調する白いドレスを着て、今日はヘアバンドを外しているヘアバンドちゃんが続いた。その後には、初々しい一年生のお嬢様方だ。
颯爽と歩き出す会長と金髪ちゃんの後を、皆がついて行く。俺たちこっちの役員は、迷子ちゃんが出ないように、最後尾を歩いて行く。お嬢様方がちらちらと見てくるのは、そう悪い気はしない。少し前までの俺だったら、この中にかわいい子いないかなー、なんて目で見ていたんだろうけれども、いや実際かわいい子はいっぱいいるけれども、今はうん、そんなことを考える余裕はないわけです……。とにかく平和に、終わりたい。それが俺の、一番の願い。
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