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朝から学校にいるとやっぱりしんどい。ずっと机に座って黙って授業を受けて。でも、今日はいくらかマシだ。今日は四限が体育だ。座学で凝り固まった体を解放してやることができる。
今日の体育はバスケだった。一応体育の授業だから基礎の練習なんかもしていたけれど、バスケの授業の後半である今日は、自由にゲームをしていいことになっている。好きな人同士でチームをつくってローテーションで試合をするのだが……当たり前だけれど俺と芹澤は別のチームだ。
「横山(バスケ部員)もいるし、俺もいるし、俺たちが勝つに決まってる」
芹澤はそのチームで、相変わらずの俺様っぷりを発している。そんな芹澤を横目で眺めながら俺は思う。
あ、一応横山のことはあげるんだ、って。横山はバスケ部員でバスケが上手いのは当たり前だけど、芹澤が他人を褒めるような発言をすることはあまりない。なんだか芹澤の言葉を聞いた俺の心から、ちり、と焦げ付いた音がした。
チームを決めてほとんど時間を置かないうちに、一回目の試合に出るチームが試合の準備を始める。俺のチームと芹澤のチームが一回目の試合に出ることになっていた。コートの中央に並んで試合前の挨拶から始める。向かい合うとちょうど俺の前に芹澤がいて、目が合った瞬間に「いーっ」って顔をされた。挑発の表情なんだろうけれど……その顔は小動物みたいであんまり怖くない。
「よろしくお願いします!」
試合が始まると、お互いのチームの激しい攻防が始まる。俺のチームにもバスケ部員はいるから、チームの強さに大きな差はほとんどなかった。
「うわっ、おまえが俺のマークすんの!?」
「藤堂のことは俺が潰すから」
どうやら俺のマークをすることになったらしい芹澤が、試合が始まってからずっと俺についてきた。俺はバスケは人並みにできるけれど、超人芹澤はバスケも人並み以上にできてしまう。こいつにマークされてしまうと全然動くことができない。
俺は横山につきたいと思っていた。横山の相手は同じバスケ部員のチームメイトが主に相手にするのはわかっていたけれど、俺はなぜか彼に負けたくないと思っていた。
ただ、芹澤がなかなか俺を横山のもとにいかせてくれない。それでも俺はムキになって芹澤を抜こうとする。芹澤もそんな俺を止めようとして……
「あっ」
嫌な感じにぶつかってしまって、芹澤が転倒してしまった。
何故か横山に負けたくないなんて気を起こして、注意を怠ってしまった。自分でもなんでそんなことになったのかよくわからない。俺は慌ててしゃがみこんで芹澤の容態をチェックする。芹澤が目を眇めて足首をさすっていたから足首を見てみると、足首が赤く腫れている。
「悪い、大丈夫か? ひねった? 保健室行かねえと」
「……行ってくる」
「ああ、じゃあ俺が連れて行くよ」
「は? 一人でいけるから」
芹澤は一人で保健室に行けると言って、立ち上がろうとする。しかし、バランスを崩してまた倒れそうになっていて……俺は黙って芹澤の腕を掴んで自分の肩にまわした。
「えっ、ちょっと……!」
「保健室まで付き添いますんで」
「いや余計なお世話だから! 離せ!」
いやいやと暴れる芹澤を無視して、俺は芹澤を引きずるように体育館を出て行く。ほんと、なんでこんなことになるまで横山に対して敵対心なんて持っちゃったのかなあって一寸までの自分に問いかけた。
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