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ムスッとしている芹澤をなんとか保健室まで連れてくる。途中、芹澤がずっと「ほんと、一人で行けるから」「鬱陶しい」「ウザい」と悪態をつきまくっていて、色々と俺が悪いのはわかっているけれどさすがにイライラとしてしまった。本当に可愛くねえなー、と言いたいのを我慢して、やっとの思いで保健室まで来たのはいいけれど……保健医が留守にしていた。職員室にいます、と看板は出ているが、湿布を貰いにきただけだしわざわざ呼ぶのも面倒くさいと、俺は構わず中に入っていく。
「湿布探すから、座れよ」
「いや、自分でやるから藤堂は帰れ」
「うるせーなー、黙って治療されてろよ」
とん、と胸を押して椅子に座らせると、芹澤はそのまま倒れるようにしてとすんと椅子に着地する。それからは、嫌だ嫌だとは言っているが立つのがしんどいのか黙って俺が湿布を探しているところを眺めていた。
少し棚のあたりを漁れば、すぐに湿布は発見できた。俺はそれを持って芹澤の前にしゃがみこむ。そして、患部を見ようと靴を脱がせようとした、その時だ。
「じ、自分で脱ぐから」
「あ? いいよいいよ、俺がやるし」
「いやほんとに」
「別に痛いこととかしないし」
芹澤が、やたらと俺に脱がされるのを拒んだ。俺のことだから更に悪化させるようなことをするとでも思っているのだろうか。面倒に思って、俺は芹澤の反抗を無視して靴を脱がせにかかった。
脚を軽く掴んでぐいっと靴を引っ張る。靴を脱がせたら次は靴下を。芹澤の足首はなかなかの広範囲で腫れていたから、まずは靴下を脱がせなくては湿布が貼れない。なんだかビシッと固まっているその足から靴下を脱がせていって……俺は固まる。
「うっ……」
「……?」
小さな、声が聞こえた。不思議に思って上を向くと……芹澤がギュッと目をつぶって、ぷるぷると震えている。
――まずい。
直感的にそう思った。何がまずい、そんなの決まっている――俺の理性が、壊れる。
「……あ、えっと……ほ、本当にごめんな、俺ちょっと躍起になってて」
「待っ……! さ、触らなっ……ひっ……」
「……ッ」
足の具合を確かめるように手のひらで優しく触れた、その瞬間。ひっ、と声の詰まる音が聞こえた。そして……じわ、とその瞳に涙が浮かんだ。
それをみた俺の体は、ぐっと熱を持ち始める。冷静になろうとしていた頭は茹だってきて、視界がくらくらとする。
「んっ……!」
気付けば、やってしまっていた。俺は手のひらで芹澤の脚をすっと撫でてしまった。片手で踵を持ち上げて脚を浮かせて、もう片方の手で足首から膝にかけてをすうっと撫でる。そうすると芹澤がビクビクッ、と震えて、触られた方の足のつま先がギュッと丸まった。
だめだ、ここで止めろ。そう思うのに……その理性は蓋をされたように表に出てきてくれない。芹澤の泣き顔をみたい、その欲望が怖いくらいにドロドロと溢れ出してくる。
「うっ……触る、な……」
「……どこ触られても泣くんだな。敏感な体ですこと」
「ち、違っ……こ、怖い……触られるの、怖い……」
「だからその怖いってなんだよ、犯したりしねぇって」
はー、はー、と芹澤の呼吸が荒くなっていく。芹澤は口に手をあてて目を閉じて、ぷるぷると震えながら俺の愛撫を受けていた。
「……ッ」
ああ、しんどい。何をこいつは怖がっているのか、そんなことはどうでもよかった。もっともっと泣かせたいと邪な欲望が湧いてくるばかり。
欲望は止まらず脚に触れていれば、細くて綺麗に引き締まった脚がなぜか艶めかしくみえてくる。気付けば俺はその膝に、口づけを落としていた。
「あっ……」
そうすると、芹澤の瞳からぽたりと涙の雫が落ちる。それが、合図のようだった。俺は芹澤の脚に食らいつくように、脚全体への唇での愛撫を始める。そうすれば芹澤はビクンッ、と一度大きく震え、その後はピク、ピク、と小さく震え。全身の力が抜けてしまったのかずるりと体を背もたれにもたれかからせて、俺への抵抗は一切なくなった。
この状態は……あまりの恐怖に屈してしまった状態。抵抗する気すらもなくなるくらいに、芹澤は今、俺に完全に下っている。何が芹澤をそうするのか、なんてわからない。ただ俺は、あの芹澤がこうして自分に好きにしてくださいと言わんばかりに身を委ねている状態に興奮していた。
「あっ……ぁうっ……」
芹澤の瞳から次々と涙が溢れる。俺がどこかに唇で触れるたびに「ひっ、」と小さく声を漏らして首をふるふると振って心底怯えているような仕草をする。俺は本当に気が狂ったのかそんな芹澤が可愛いなんて思ってしまって、もっとじっとりと責めようと思ってしまった。脚を抱くようにして固定し、舌を足首のあたりにあてて、そしてゆっくりと膝に向かって滑らせていく。ゆっくり、ゆっくりと。
「あっ……ぅああ……」
「ほら、もう一回だ」
「ぃ、やだ……あっ……ひ、ぁあ……」
それはもう、くっきりと芹澤の脚に鳥肌がたっていた。そんなに嫌なのか、と笑いすらもこみ上げてくるくらい。
ヒクヒクと震えながら泣いている芹澤。今のこいつなら、どうにでもできそうだ、なんて思う。
「……さわ、らないで……お願いだから……俺のなかに入ってこないで」
――芹澤の言葉の意味が、わからなかった。「入ってくるな」と言われても、もとから芹澤のことを犯すつもりなんてない。……わからない、というよりも考える余裕が今はないのかもしれない。芹澤の泣き顔への興奮が俺を急かしてきて、まともに思考回路が働かなかった。
俺が一切止める気がないと悟ると、芹澤は諦めたように目をとじる。なんだかこのまま穢してみたいなあなんて、どんどん俺の欲は醜くなっていって、抑えるのが苦しくなってくる。気づけば俺は芹澤のシャツのボタンに手をかけていて、それでももう芹澤は抵抗してこなくて――
「……ッ!」
頭の中で、芹澤が乱れる姿を想像してしまったその瞬間。授業終了のチャイムがなる。
頭に冷水を浴びせられた、そんな感覚。一気に現実に引き戻された。身体の中で渦巻いていた異常な興奮が冷めていって、今、自分がやっていることがとんでもないことだということに気付く。
「せ、芹澤……ご、ごめん……」
前も怖がらせて、今日もまた、やってしまった。ごめんなんて言葉ではもう済まされないと思う。なんで自分がこんなにも芹澤の泣き顔に興奮しているのかわからない。やってはいけないことをやってしまうくらいに、なんで。
俺が謝っても、芹澤は何も答えなかった。嗚咽が止むまでしばらくかかって、ようやく落ち着いたころにじろりと俺を見下ろす。そして、俺の脇に転がる湿布をひったくるように取ると、捻った足首に貼った。
「……藤堂」
「えっ……な、何」
「……おまえのいつもやってくるソレって、いやがらせ?」
芹澤は立ち上がり、ゴミをゴミ箱に捨てに行く。俺は呆然としながらその後ろ姿を見ていた。
いやがらせ、ではないと思う。でもいやがらせかもしれない。泣かせたいという想いはいやがらせでしかないからいやがらせかもしれないけれど、泣かせたいのは嫌いだから泣かせたいわけではない。たしかに芹澤のことは嫌いだけれど、泣かせたい理由はそれとは違う。
嫌いという想いと泣かせたいという想いが繋がっていないということはわかるけれど、じゃあなんで自分が芹澤を泣かせたいのかはよくわからない。
俺がどう答えればいいのか迷って黙っていれば、芹澤は小さく舌打ちをする。
「……藤堂は俺のこと嫌いじゃん」
「……嫌いだけど」
「だったらなんで? なんでそんなことできるの? 俺は心底おまえのことを理解できない」
思い切り芹澤に糾弾されながら、俺はただただ自分の行いを反省することしかできなかった。何を言われても仕方のないことを自分はしている。このまま芹澤に刺されても仕方ないかな、と思いながら何も言い返せずいれば、芹澤が振り向いた。
「……嫌いな人に触れるの、気持ち悪くないの? ただでさえ他人に触れられるのは気持ち悪いのに」
振り向いた芹澤の頬に、涙の筋が光っている。窓から差し込む光で逆光になった芹澤の顔で、唯一涙だけが光っていた。なぜか俺はその光景にドキッとしてしまって、息が止まってしまう。
だから、芹澤の言った言葉がイマイチ頭の中に入ってこなかった。芹澤は俺に触られるのが本当に嫌だったんだな、と思ったくらいだった。
「芹澤……あの、ほんと……ごめん」
「……死んで」
芹澤は涙を拭って、俺を横切って保健室を出て行ってしまった。引き止めることもできず、俺はその場にぼんやりと立ち尽くすことしかできなかった。
芹澤の涙をみておかしくなってしまう自分。自分自身がわからなくなって、狂ってしまいそうだった。
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