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「藤堂、おまえは怪我とかしなかった? 大丈夫?」
教室に戻れば、クラスの生徒はみんな昼休みモードに入っていた。仲の良い人同士で昼食をとっている人が大半。俺はといえば芹澤のことで鬱々としていたからあんまり食欲はなかったけれど、教室に帰れば笑顔で話しかけてきた奴がいる。横山だ。バスケで芹澤のチームにいた、無駄に俺が対抗心を燃やしてしまった彼。横山はいい奴で、芹澤と衝突した俺のことも心配していてくれたようだ。
「芹澤はさっき戻ってきて生徒会室行ったよ。大事になってないようでよかった。捻挫って結構怖いからね」
「……芹澤なんともなさそうだった?」
「ん? おお、全然。いつもどおり。いつもみたいにどーんって感じでみんなと喋ってたよ」
「……どーん」
横山はいつの間にか手に持っていたパンを食べ始めている。さりげなく一緒に昼食をとる雰囲気になっていて、じゃあ俺もと弁当を机に出した。
箸を出しながら、俺は横山の言葉が気になっていた。どーんって感じ……って。「俺様な態度」をオブラートに包んで言っているような気がする。あいつのことを俺様だと感じていたのは横山もなのだろうか。
「……横山ってさ、芹澤のことどう思ってるの」
「どうって?」
「……いや、なんか……あの横暴な態度っていうか……すっげー俺様じゃん、アイツ。ウザいとか思わないの?」
「……あー、横暴ね。たしかにあるかも。でもあれ、話してると嫌な感じはしないよ」
芹澤は、あんな性格のくせに人気がある。俺が神経質で芹澤の言動がいちいち気になっているだけなのかと思ったけれど、横山も芹澤の性格については思うところはあるようだ。それでもなんでアイツのことを嫌わないでいられるのか……俺にはよくわからない。
「……いや、なんか……根っこは優しいのかなって思う」
「どこが? アイツ最悪じゃん」
「それは藤堂が芹澤のことを嫌いって目で見ているからだよ。嫌いって思わないでよくよくみていればさ、結構芹澤は可愛いところあるから」
「……横山おまえ大人すぎるだろー……すげえな」
「いやいや俺もだしみんなも単純なんだって。メンクイなんだよ。芹澤って顔がいいから第一印象抜群じゃん? みんな好きの状態から入って芹澤のことみてるんだよね~。藤堂は性格をみて人を判断するタイプってだけでしょ? 俺が大人なわけじゃないよ」
横山の言葉は、ごもっとも。芹澤は顔がいいから、みんな一目見てアイツのことを好きになる。恋は盲目みたいなもので、好きになってからアイツのことをみれば傍若無人な言動よりも他のちょっとした優しい言葉のほうが印象深く見えるのかもしれない。でも俺は女子はともかく男なんて顔は関係ないって思っているから、芹澤の印象はプラマイゼロからスタートしたわけで。まずはじめにあの俺様な態度をみてしまったから一気に印象はマイナスに振り切ってしまって、そこからプラスに戻ってくる気配はない。
「無理だ……俺、アイツのいいところなんて見れる気がしない」
「いいんじゃない? 逆に他の人があんまり見ようとしていない芹澤の欠点をよく見ているわけだし」
「それ、いいの?」
「いいじゃん。他の人が知らない芹澤のことを知っているんだから、それはそれでいいと思うよ」
他の人が知らない芹澤。みんながスルーしている、俺様な態度。そして……意外とよく見せる泣き顔。それから逆に俺が知らないのは、ときどき見せるらしい可愛いところ。
知ろうとすればするほど、芹澤はわけがわからない――どれが本当の芹澤なんだろう。
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