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 本屋から出ても芹澤はずっとムスーッとしていて不機嫌丸出しだった。なんで衝動的にしてもこんなことをしちゃったのかなって後悔しながらも俺は、連れだしたからには何か話をしないとと芹澤に声をかけてみる。 「……本屋で何してたんだよ」 「……時間つぶし」 「時間つぶしって……もう夜だけど。家に帰ればよくね?」 「……」 「待ち合わせとかしてた?」 「……違う」  本屋にいた理由を聞いてみても、答えはよくわからない。ちょっと暇だから本屋に寄ってみた……という可能性もないわけではないけれど、芹澤の所属している生徒会は今から一時間以上前に終わっている。それからずっと本屋にいたということは、本当に何かが始まる時間までの時間つぶしなのだろう。でも、考えてみてもそれらしきことは思いつかない。こんな時間から高校生が待ち合わせなんてするとも考えられないのだ。 「ちなみに何時まで時間つぶすつもりだったんだよ」 「……10時半」 「……10時半!? え!? あと二時間くらいあるけど……っていうかその時間から何があるんだよ、え? 昨日ももしかして……」 「毎日だけど」 「……毎日って……毎日10時半まで新宿にいたわけ? あぶねーだろ……そんなことしてるから前みたいにレイプされかけんじゃねーの」 「……」  芹澤は俺から目をそらして、黙りこんでしまう。  本当に、10時半頃にに新宿になんていたら危ないと思う。というよりも、制服を着て夜の街をうろついていたら警察に声をかけられるはずだ。よっぽど上手く隠れていたんだろうけれど……なんでそんな時間まで新宿で時間をつぶす必要があるのだろう。  たぶん、この調子だと問い詰めても答えてはくれない。そして、このまま10時半まで新宿に残るつもりだ。いくら嫌いな奴でもそれを放っておこうとは思えない。この前のレイプ未遂を見てしまった後だと、芹澤は男から襲われる可能性もあるということだし……。 「……あー、……俺んち、くる?」 「は?」 「いや、まじ夜の新宿はあぶねーからさ、」  ダメ元で、聞いてみた。こんなウザい奴をうちに入れたくないけれど、このまま放っておいてもしものことがあったら後味悪い。  案の定芹澤は顔をしかめて俺を訝しげに睨みつけてくる。芹澤が他人に借りをつくるようなことをするとも思えないし、ましてや俺だし。襲われかけた相手にほいほいと着いてくるとは思えない。 「……誰がおまえの家なんかに行くか」 「あ!? 人の厚意にその言い草、ほんと可愛くねえ奴だな! っつーかまじこんな時間におまえみたいな無駄に見た目いいやつがフラフラしてっと危ないんだっつーの! 芹澤くんが東京湾に沈んで死にましたーなんてなったらお前に化けて出られるだろ! そんなの俺はゴメンだね!」 「……化けてなんて出ないよ。この世に霊とかいないから」 「うわ、おまえつまんねーやつ」  思った通り、芹澤は俺についてこないと言った。でも、新宿駅に入っても俺の後ろを着いてくる。まあ電車だから途中までは一緒だろうと思ってはいたが、どこまで歩いても途中で別れることはない。 「……何線?」 「……」 「俺、高崎線だけど……」 「ふーん」  結局芹澤は、俺の使う高崎線のホームまで着いてきた。もしかして、と思って聞いてみる。 「……俺んち、来るの?」 ――芹澤は、何も答えなかった。

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