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――結局芹澤は俺と同じ駅で電車を降りた。何も言葉を発さないが、俺の家に来るつもりなのだろう。クソ生意気だし絶対着いてこないと思ったのに……と思いつつ妙にそわそわとしている自分がいる。
電車を降りれば、そこからは自転車で家にいくことになる。駅から家までは、歩けばそれなりにかかるのだ。もちろん芹澤はこの駅に自転車なんて置いていないし、これはダメな奴だけれど二人乗りをするしかないかな、と俺はため息をつく。俺は不良だ不良だと言われているけれど、警察に怒られるようなことはあまりしたくない。
「……俺の後ろに乗れよ」
「……えっ」
「え、じゃねえ。置いてくぞここに」
「……」
自転車の荷台を叩くと、芹澤はムスッと顔をしかめる。やっぱりこいつ可愛くねえー!と心の中で叫んでいれば、芹澤はすごすごと自転車に近づいてきた。そして、ちょん、と遠慮がちに荷台に座る。
俺もサドルに座って、ペダルに足をかけた。でも、違和感を覚えて発車できず、振り返る。
「……落ちるぞ」
「?」
「いや、俺に捕まってって」
「……え、」
芹澤が、座っただけでどこにも捕まっていない。それだとよほどのバランス感覚がなければ漕いでいるうちに落ちてしまう。たぶん二人乗りなんてやったことがない芹澤はわかっていないのかなって俺につかまるように促してみれば、芹澤は困ったような顔をした。
そういえばやたらと「触るな」と言っていたことを思い出す。芹澤は俺に触られるのも触るのも嫌なのかもしれない。俺、すごく嫌われているからなあ……とあまり強く言えないでいたけれど、やがて芹澤は恐る恐るといった風に指先で俺のカーディガンを摘んできた。それ全然意味ないけど……と思っていれば、意を決したように唇を噛んで、そしてぎゅっと俺に抱きついてくる。
「……っ」
俺の胸元で、芹澤の手が拳を作った、それを見た瞬間。ドキッと心臓が大げさなくらいに跳ねた。そして、全身の血が茹だるような、そんな感覚を覚えた。ドクンドクンと体が脈をうって、視界がゆらゆらと揺れて。
なんだこの感覚……――あたまがおかしくなりそうになる。
「……芹澤?」
「……」
芹澤の手が、かすかに震えている。なんだか人に触れるときにいつもこいつ怯えているなあ、と思いつつ、俺はその手に自分の手を重ねてみる。
「……別に振り落としたりしねえし。びびってんじゃねーよ」
「……る、さい……はやく進めよ、……ばか」
「クソ生意気」
俺が触れれば余計に怖がってしまったようで、仕方なく俺は芹澤から手を離し、大人しくハンドルを握る。そしてペダルに乗せている足に力を込めて、自転車を漕ぎだした。
芹澤は、ずっとガチガチに腕に力を込めて、何かに緊張しているようだった。俺のカーディガンを握りしめる拳は青白くて、みているこっちが緊張してきてしまう。
「……芹澤」
「……ん」
「顔あげろよ、俺の背中にひっついてないで」
「……は?」
「いいから」
ずっと背中に押し当てられていた頭が、ふっと浮いた。芹澤が「いみわからない」と今にも言い出してきそうな雰囲気を遮って、俺は言う。
「……空」
「?」
「……新宿の空よりもこっちはまだ綺麗だぞ。ちゃんと星が見えるから」
新宿から高崎線に乗って一時間はいかないくらい。東京から少し離れたここは、夜になれば星が見える。俺の言葉に反応して顔をあげたらしい芹澤が、息を呑む声が聞こえた。
「……綺麗」
「……そうかよ」
俺の胸元に回された腕から、力が抜ける。無意識だろうけれど、芹澤がさっきよりも俺に体重をかけてきた。芹澤の体全体が背中に当たって、温かい。
――夜風が気持ちいい。火照る体が、涼やかな風で冷まされてゆく。
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