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「おっ、予想通り」
俺もシャワーを浴びてきて、まだおねむらしい芹澤を半ば無理やりリビングに連れて行けば、テーブルには予想通り煮物をメインにした夜食が並んでいた。
「……!」
やたらと気持ちよさそうに寝ていたからここまで連れてくるのに苦労した芹澤だが、テーブルに並んでいるご飯を見た瞬間にぱちりと目を覚まして、興味津々といった様子でご飯を見つめている。
「え、すごい……」
「……すごい?」
「こういうご飯、テレビでしかみたことがない」
「……ん? 普通のご飯じゃね?」
なにやら不思議なことを言っている芹澤に、母さんが微笑みかける。「お腹空いているでしょう、はやく食べて」と言われると、芹澤は複雑そうな顔をしながら席についた。
俺も芹澤の隣に座って、いただきますをして箸をとる。芹澤はといえば箸を持ったのはいいけれどキョロキョロしていてなかなかご飯に手をつけない。「テレビでしか見たことがない」発言、まさか本当なんだろうか。だから何から手をつけたらいいのかわからない、とか。
「……母さんの作った煮物、美味いから食べてみ」
「えっ……う、うん」
とりあえず、さりげなく先に煮物を進めてみる。そうすれば芹澤は素直に煮物に手を伸ばしたけれど、さらに煮物の中から何をとったらいいか迷っているみたいだったから、俺が適当に「俺は大根が好き」って言ってみればそれを箸でとった。
芹澤がゆっくりと大根を持ち上げて、そして恐る恐るといったふうに端っこをかじる。そして、「あつっ」と呟いた。猫舌なのか……と思って吹き出しそうになったけれど、芹澤の表情に俺は固まってしまう。
「……おいしい」
芹澤は、本当に美味しそうな顔をしていた。目をきらきらとさせて唇をきゅっと噛みながらもちょっとにやけて、そして頬を赤くして。
そんなに、そこまで美味しいものか。たしかに母さんの料理は美味しいけれど、芹澤の反応が大げさでちょっと面白いと思ってしまう。
でも、そんな芹澤の反応をみた母さんが嬉しそうにしていたから、俺もなんだか嬉しくなった。自分の親の料理を美味しいと言われるのは気分がいいものだ。
そうしてあっという間に芹澤はご飯を完食した。ごちそうさまでした、って言って手を合わせる芹澤がなんだか可愛らしく思える。
芹澤って悪いやつじゃないのかなって、俺はそんな風に思い始めていた。
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