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 気まずい雰囲気のまま、ようやく俺たちは電車を降りることができた。ろくに会話もしないまま俺は自分が結局何を言おうとしていたのか考えていたけれど、意味不明な答えしか浮かばなくてスッキリとしない。芹澤は電車を降りてもほんのり頬を赤くしてムスッとしていて、本当に俺はろくでもないことをしたなあと頭を抱えたくなる。 「……藤堂嫌い」 「まだ言うのかよー! マジごめんってば!」 「……嘘ついただろ」 「え? 嘘?」 「藤堂だって友達多いくせに……それなのに急に俺を一番になんて、できるわけないじゃん。くだらない嘘、つくなよ」  俺が電車でのことを引きずっていれば、芹澤がうつむきながら俺にそんなことを言ってきた。その表情に、俺は息を呑む。ほっぺは紅いのに、どこか寂しそうな目。まるで俺のあの発言が嬉しかったけれど信じることができない、ってそう言っているような。  芹澤は、俺が「おまえのことを誰よりも」の次に何を言おうとしたのかということよりも、「一番に考える」と言ったことが気になっているらしい。そんな顔をして、そんなことを言ってきて……芹澤はもしかして、俺に一番に考えて欲しいのだろうか。  ……なんだ、それ。それが俺の自惚れじゃなかったら、可愛すぎる。あれだけ嫌いウザいむかつく嫌いと言っておいて、結構俺のことを良く思っている、とか。 「……あ~!」 「……な、なに。やっぱり藤堂おまえ、俺のこと騙そうと」 「違ェよ、もう! おまえ、ほんとムカつくなあ!」  ムシャクシャする。芹澤に心をかき乱されっぱなしで、なかなか落ち着かない。  俺はぱっと空を見上げて、そして時計を確認した。まだ空はギリギリ青い。 「ちょっとついてこいよ、芹澤」 「えっ、な、なんだよ」 「まだ家に帰るには早いだろ!」  俺は芹澤をひっぱるようにして、自転車に乗る。そして、頭の上にハテナをたくさん浮かべている芹澤を後ろに乗せて、家とは違う方向に向かって自転車を走らせた。

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