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「あら……芹澤くんいらっしゃい。……二人ともどうしたの?」  家についた俺たちを見るなり、母さんが苦笑いをする。それもそうだろう、俺たちははたからみてもわかるくらいに不機嫌だった。 ――あのとき。衝動的に俺が芹澤を抱きしめてしまったとき。芹澤は死ぬほどびっくりしたらしく、パニックになりながら怒って俺を突き飛ばしてきた。そしてその後ずっと俺に悪態をついてきたのだ。  芹澤が触れられることを苦手としていると知りながら、全身に触れることを必要とする抱擁なんて無体を働いた俺が悪いのはわかっている。ただ、あんまりにも芹澤が文句を言ってくるものだから、ついでにいうと俺自身が自分の行動にびっくりしてパニックになっていたのも相まって、俺も色々と言い返してしまった。  そのまま、喧嘩をしながらも自転車でなんとか家にたどり着いた……というのが、これまでのあらすじである。 「なにがあったのかは知らないけれど、ごはんができるまでは仲直りしてね。まだごはんができるまで時間があるから、二人で部屋で待っていて」 「……はーい」  喧嘩という喧嘩ではない。 俺がうっかり抱きしめてしまったせいでお互いがパニックになって、それでいつもやっている口喧嘩がヒートアップしているだけ。  でも……これから二人きりになるのは気まずい。芹澤は俺を警戒してしまったのかツン度が増してしまっているし、俺は自分の行動を思い出すと恥ずかしくて仕方ないし。  ただ母さんの手前、そうも言っていられない。俺たちは仕方ないというように、のそのそと俺の部屋に向かっていった。

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