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ものすごいスピードで自転車を漕いで、史上最高記録の時間で駅までついた。芹澤はどこにいるかな、と思ったが、よくよく考えればまだ電車が駅についていない。自転車を早く漕ぎすぎたようだ。
自転車を降りて、ホームに駆け上がる。殺風景なホームは、こうして待っていると少し寒いけれど苦ではない。妙にドキドキと高鳴る鼓動が、心地よい。
なんでこんなに俺は嬉しいんだろう。早く芹澤に会いたいと思っているのだろう。その答えを教えてくれそうな電車が、ホームに近づいてくる。夜の闇を裂くように光が走ってきて、そしてホームの前に止まった。
扉が空いて、人がわらわらと出てくる。芹澤はどの扉から出てくるだろう……見渡そうとしたとき、体が何かを感じ取った。ちか、と光が散ったような錯覚を覚えた。そこへ吸い込まれるように視線を向けると……
「あ、」
芹澤が、降りてきた。
芹澤の周囲に、きらきらと光の粒子が見える――もちろん、錯覚だろうけれど。改札へ向かう人々の影なんて全く目に入ってこなくて、俺の意識は全て芹澤に向かっていた。
「――きっ……来てやったから、感謝しろ、藤堂!」
電車が発進して、ガタンゴトンと煩い音が耳に障る。
顔を赤くして、腕なんて組んじゃって、偉そうに立っている芹澤が、眩しい。
……会いたかった。無性におまえに会いたかった。よくわからないけれど、会いたかった。
「……ああ、ありがと、芹澤」
「えっ」
素直に感謝の言葉を吐いた俺に、びっくりしたような顔をしている芹澤。俺は、そんな芹澤に近づいていって、引き寄せて、そして抱きしめた。抱きしめながら、思う。
――ああ、俺は今、恋に堕ちたんだと。
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