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「……藤堂?」  芹澤への恋を自覚してしまった俺は、あることに困り果てていた。ドキドキとしすぎて、頭が真っ白なのだ。心臓が口から出てきそうなくらいにドキドキしているから頭がくらくらしてくるし、芹澤が眩しすぎて直視できないし、なにを話したらいいのかわからなくなってしまうし。  芹澤はそんな俺をさすがにおかしいと思ったのか、こそっとした声で呼びかけてきた。ビクッと俺は大袈裟なくらいに体を震わせて、乾いた笑みを浮かべる。 「えっと……じゃ、自転車乗りますか」 「……なんで敬語?」  駐輪場までやってきて、二人で一台の自転車に乗るということにも緊張してしまっていた。まず、俺がサドルに座って、そして芹澤に後ろの荷台に座ってもらって…… 「ひゃあっ」 「はっ? な、なに、変な声だすな藤堂」 「ごっ、ごめん」  ぎゅ、と芹澤に後ろから抱きつかれた瞬間に、びりびりっと全身を雷でうたれたような衝撃がはしった。  まずい。まずいまずい。ドキドキしすぎて、身体がおかしくなっている。芹澤の顔をみたり、ちょっと触れただけでかあっと全身が熱くなっておかしくなりそうになる。  恋ってこんなに厄介なものだっけ。こんなことは初めてで、俺は戸惑っていた。 「あ、あのさ、」 「なに?」 「春原……よかったのか、本当に俺のところにきてよかったのか」  あんまりにも緊張してしまっていたから、話を振ってみる。黙っていたらドキドキで押しつぶされてしまいそうだから。 「……それは、いいの」 「……そっか」  でも、振ってみた会話はあっという間に終了する。突然春原の家に行く予定がなくなったということに驚いていたけれど、これはあんまり会話のネタにはむいていないものだったらしい。    それからは、ずっと無言で走っていた。芹澤がぺたっと背中にくっついてくるのにきゅんきゅんとして、熱が身体の奥から湧き上がってきて、夜風が気持ちいい。  家に帰ったらどうしよう。今までみたいに芹澤に接することができるだろうか。……そんな不安を覚えながら、俺は無心でペダルを回し続けていた。

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