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 今日は芹澤は、俺の家に来ないらしい。理由は単純で、着替えを取りに行きたいから。昨日にいたっては下着なんかは俺のを貸していた。  芹澤が俺の家に泊まりに来ていたのなんてたった数日だけれど、来ないとなるとものすごく寂しい。一つのベッドで芹澤を抱き枕にしながら寝るのが俺の密かな楽しみになりつつあったから、尚更。 「なんだか憂鬱そうな顔してんじゃん、どうした」 「んー、べつに」  学校が終わって、俺はいつものように友達と街で遊んでいた。芹澤が家に来ないことが残念すぎてあまり元気のない俺を、友達は不思議そうにしていた。  でも、別に明日とか明後日とかまた誘えばいいんだし、と自分を奮い立たせた。それに来週は芹澤と星をみたりできるし。 「あれ、あいつってさ」  さて今日は今日で遊ぶかとようやく俺が意気込んだとき、友達が声をあげる。どうしたんだと彼の視線を辿ってみると…… 「あれってさ、北高の……」 「あー……なんかみたことある」  そこには、悪評の絶えない笹塚という男が仲間と群れていた。  女を何人も孕ませたとか、喧嘩は毎日しているとか、警察沙汰なんか日常茶飯事だとか、とにかくろくでもない噂ばかり聞く彼。友達は彼を見るなり「うげっ」と言ってその場から立ち去ろうとする。 「……待って」  でも、俺はあるものが視界に入ったとき、立ち止まった。笹塚と一緒に、みなれた制服。そこにいたのは、なんと春原だった。 「えっ、なに藤堂。めんどうごと起きるの嫌だから見つかる前にどっかいこ」 「い、いや……あそこにうちの生徒会副会長……」 「えー、まじで? 見間違いじゃないの? あれ……いなくなっちゃった」  ありえない、と俺も思った。人が誰と交流を持とうが勝手だろうけれど、笹塚は本当に危ない奴だ。そんな奴と、好青年の代名詞である春原が一緒にいるなんておかしい。俺も見間違いかと思ってもう一度見てみようと思ったけれど、彼らの姿は消えてしまっていた。  芹澤に向ける表情がどことなく不気味な春原。そんな彼が、笹塚と交流を持っている。……もしかしたら春原は、本当はいいやつなんかじゃないのかもしれない。時折春原の発する空気は鳥肌が立つほどに気味が悪くて、まるで蛇が体を這いずりまわっているようなそんな感覚を覚えるほど。 「……っつーかまだ生徒会やってる時間じゃねーの。あいつなんでこんなところにいんだよ……」 「嘘ついて早退でもしたんじゃない?」 「……なにしてんだよアイツ……」  春原への疑心がどんどん膨らんでゆく。俺は芹澤と春原の関係に突っ込む資格なんてないけれど、こうした嫌な予感は大抵何かが起こる予兆だったりする。見てみないフリなんてできない――どうやって芹澤から春原を遠ざけようと、俺は頭を抱えたくなった。

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