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いつもよりも遅い時間に電車に乗ったからだろうか、帰宅ラッシュはさけることができた。座椅子に空きをみつけて、俺たちはそこに座る。
「藤堂の家、いくの?」
「うん」
「……」
芹澤は顔を赤らめて、俺の肩に頭を乗せる。俺たちの前に座っていた女子高生が少しびっくりしたような顔をしているけれど、気にしない。俺は腰の横にぽんと置かれている芹澤の手を、上からぎゅっと握りしめてやる。
芹澤が今考えていることはわかる。芹澤が俺の家に来た時は毎回ちょっとエッチなことになっていたから、今日はもしかして抱かれるのかも、なんて考えているんだろう。明日は学校が休みだし、夜中まで起きていても大丈夫だから。
「……芹澤」
「……ん」
「抱きたいって言ったら、抱かせてくれるの?」
「……っ、」
聞いてみれば芹澤は全身をかっと赤くして黙り込む。寄りかかられているから芹澤の体温が上昇するとその熱が伝わってきて、全部わかってしまう。
「……べっ……べつに、……したいってわけ、じゃなくて……」
「うん」
「俺は、その……そんな、はしたないこと、……したいなんて思ってないし、」
「うん」
「~~っ、……藤堂の好きにすれば、」
「好きにしろなんて言ったらめちゃくちゃに抱くかもしれないぞ? いいの?」
芹澤はやっぱり素直にして欲しいことを言ったりできないようだ。今日くらい言ってくれてもいいのにって思うけれど、顔とかしどろもどろな言葉で芹澤の気持ちなんて丸分かりだ。
俺の問に、芹澤がこくんと頷く。赤かった顔がさらに赤くなって、今にも沸騰しそうなくらい。「すごくエッチなことしてもいい?」「一晩中抱いてもいい?」ってちょっと意地悪して聞いてみれば、その問すべてにこくこくと頷く。
……まあ、今日はエッチするつもりはないんですけどね、なんては言わない。でも芹澤の本当の気持ちを聞き出したら俺は芹澤にちゃんと告白するつもりだし、何が何でもオッケーをもらうつもりでもある。芹澤のことを幸せにしてやるのは俺だって思っている。そして晴れて恋人同士になったらーーいつかすごくエッチなことだってしてやりたいし、一晩中抱いていたい。だから、これは事前の許可ってわけだ。
「言質とったぞ~。あとから拒否はなしな」
「……しないし」
「へへ、あっそ。これから芹澤は俺に死ぬほどキスされるわめちゃくちゃに抱かれるわ大変だな」
「べつにっ……大変じゃないから……」
「大変じゃない? そっか芹澤もしたいんだもんね」
「……! ちっ……ちがっ……」
ああ、これ、もし付き合えたとしても芹澤のツンは続くな。俺はそう確信する。でも芹澤は態度に思いっきり本心がでるから、可愛いんだ。
「と、藤堂……」
「ん?」
「あの……俺……は、はじめて、なので……えっと……」
「わーってるって、めっちゃ優しく抱くから」
「そ、……そんな、……」
芹澤は耳まで真っ赤になる。そして、くるりと俺と正面から向き直ると、ぎゅっと抱き着いてきて俺の胸元に顔を埋めた。優しくしてね、ってそう言ってるのだろうか。そんなことをされると本当に抱きたくなってしまう。
まあ、それは我慢だけど。芹澤と先に進めるかどうかは、これから俺の想いが芹澤に届くかどうかにかかっている。
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