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誰かと一緒に、朝ごはんを食べるということを、俺はほとんどしたことがない。いつも、自分でパンを焼いて、一人で食べている。会話のある朝食なんて、人生の中で何度あっただろうか。
「最近知ったんだけどさ」
「……ん?」
「パンにチーズ乗っけて焼くとうめえの! 涙もやる?」
「……じゃあ、やる」
だから。こうして結生と話をしながらの朝食は、ひどく、楽しい。カーテンから溢れる朝の光を浴びながら、テレビからながれるニュースを聞いて、そして結生と一緒に、食べる。
どうやら今日も、結生の家族は出かけるらしい。だから、二人きりの朝だけど。誰かと一緒に、朝食を食べることがこんなに幸せだなんて、結生と一緒にいて、初めて知った。
「今日、何するー?」
「えっ、な、何って?」
「家族帰ってくる前にエッチはしたいじゃん? でも他にも何かしようかなーって」
「え、エッチ、って……」
トーストをかじりながら、結生が尋ねてくる。本音を言えば、俺は、一日中結生にエッチなことを、されっぱなしでいたい。溺愛されて、一生分の幸福を、結生にもらいたい。でも、結生は、エッチ以外の何かをしたそうだ。どうしようかな、と考えて、俺は、窓から見える青空に、気付く。
……綺麗だなあ、って思った。空が、青くて綺麗だなって。
俺は、いじめられ続けて、精神をおかしくしてしまっている、らしい。それが、俺に、色盲という症状を、引き起こしているのだと。常に色がわからない、というわけではないけれど、ほとんどの時間が、俺にとって美しさを感じない景色だ。だから……こうして、青空を綺麗だ、と感じるのは、奇跡のようなものだった。
空は、こんなに、青いのか。結生と一緒にいると、色がみえてくる。世界を、美しいと感じる。結生への恋心が俺にとってとって、すごく、いいものなのだろう。
「……外、いきたい」
「お。お出かけするかー? どこか行きたいところある?」
「えっ、えーと、……丘」
「あ、まじ? 行きたい? 行こっか!」
景色の綺麗な、ところ。あと、人が少ないところ。そうすると、あの丘しか、思い浮かばなくて、俺が丘を提案してみれば、結生はすごく嬉しそうに、笑った。ああ、言ってみてよかった、って思う。
結生。結生、大好き。結生と一緒にいると、色が、わかる。どきどきと心臓が動けば、それに合わせて、世界が色付いてゆく。その感覚に胸が締め付けられて、これが、恋なんだ、って思う。
「結生」
「んー?」
「……」
「?」
「……なまえ、呼んだだけ」
「ふっ、なにそれ、かわいい」
この気持ちを言葉にできたら、もっと幸せなんだけど。自分の人生を、今更呪ったりはしないけれど。この、「好き」と言えない瞬間だけ、普通の人間として生きたかった、と思う。
「涙」
「? なに?」
「名前呼んだだーけ」
「……っ、」
でも、結生は。こんな俺の、気持ちをがんばって読んでくれる。それに、甘えたくはないけれど。何度、そんな彼の優しさに、俺は救われたんだろう。
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