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その日は、朝に見てしまった、ゆうと逢見谷のことばかり考えてしまって、いまいち授業に集中できなかった。それから、結生を、見ていても、頭の中がもやもやとしてくる。
「あれっ、藤堂、いつものカーデと違う~!」
結生が、女の子に話しかけられるたびに。遠くからそれを見ていた俺は、もやっとしてしまった。別に、結生は特別女好きというわけではないし、女の子に話しかけられたとしても、その子に気が移ったりは、しないと思う。そう、わかっているけれど。それでも、不安だった。
俺は、女の子みたいに、きらきらしていないし。あんな風に、可愛く話すことはできないし。もしも、結生が他の女の子を好きになったとして、「やっぱりね」と思ってしまう。俺には、魅力なんて、ないから。
「えっ、ていうかこのカーデの生地変わってるね」
「まじ? 普通じゃね?」
「いや普通じゃないからー! やたら滑らかじゃない?」
女の子は、結生のカーディガンを笑いながら触っていた。もや、もや、心の中の靄が、広がっていく。
なに、触ってんだよ。そこで触る必要性あんのかよ。距離が近いんだよ、甘ったるい声で話しかけるな媚びた目付きで結生をみるなぶりっ子してんなよ穢いんだよ
「芹澤?」
「……え、」
不意に、声が降ってくる。ハッとして顔をあげると、横山が、不思議そうな顔で、俺を見つめていた。
「どうした? ぼーっとして」
「えっ、……い、いや……なんでもない」
今、俺は何を、考えていたんだろう。ただ、結生に話しかけているだけの女の子に、酷いことを思わなかったか。
気持ち悪い、そう思った。俺は、気持ち悪いって。恋愛って、きらきらとしたもののはずなのに。結生は、あんなに優しく、俺を愛してくれているのに。俺は、結生に恋をして、こんなにも醜いものを抱えている。
ああ、気持ち悪い。やっぱり俺は、気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い。
『慣れないことしないほうがいいよ』、ゆうの言葉が、頭の中に浮かぶ。やっぱり、俺は。人間らしいことをする、資格がないのかもしれない。
「……!」
結生が、こっちを見た。……というのははっきりわからないけれど。俺の近くにいる人とか物をみたのかもしれないけれど。ドキッ、として、そして怖くなって、俺は立ち上がる。
「あ、芹澤、どうした?」
「……うるさい」
結生に、こんなに気持ち悪い自分を見られたくない。その一心で、俺は教室から逃げ出した。後ろから、心配そうに俺を呼ぶ、横山の声が、聞こえてきたけれど。無視して、逃げた。
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