97 / 250
6
ああ、嫌だなあ。自分が、嫌だ。
教室から飛び出した俺は、なんとなく、トイレに逃げ込んだ。別に、泣きたいわけでも、なんでもないけれど、誰かに見られるのが、怖かった。今の自分は、何よりも気持ち悪いから。
「……」
ちらりと、鏡を見る。
笑い方を知らない、可愛くない顔。こんな自分の、どこを、結生は好きになったのだろう。クラスの女の子の方が、数倍可愛い。にこにこと笑う、彼女たちの方が、結生の隣に相応しい。
「おい、涙」
「えっ」
じっと、鏡を見ていたから、気付かなかった。結生が、トイレに入ってきていたことに。ぎょっとして結生を見つめれば、結生は困ったように頭をかいている。
「なにかあった? 横山が、涙の様子が変って言っていたけれど……」
「……ッ」
サッと、血の気がひいた。今、一番、顔を見られたくない人だった。自分が、汚くて、だから、そんな自分を見られたくない。のに、大好きな、結生に、見られてしまう。
「べ、つに……なんでも、ないけど」
「……ほんと? そうには見えないけど、」
結生は心配そうな顔をして、近づいてきた。ドクッ、と心臓が跳ねる。こないで欲しい、触らないで欲しい、みないで、みないで。
ぶわっと心のなかに霧がかかる。ぐらぐらと視界が歪んできて、今、自分がどこにいるのかわからなくなる。『おまえ、気持ち悪い』『穢らわしい』『さすが、インバイの子だ』なんて。そんな言葉が聞こえてきて。結生が、言ってるのかなって、思ったけれど、結生は、ただ、俺を見ているだけで。
耳鳴り、がんがんと、鐘がうたれるような、頭痛。
「う、るさい……! 話しかけるな!」
「えっ、る、涙……!?」
目の前にいる人が、怖い人に、みえて。俺は、思い切り、結生を突き飛ばした。そして、その場から逃げ出して、自分が突き飛ばした人が、結生だって気付いて。強烈な、後悔を覚えながら、走った。
ともだちにシェアしよう!