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 ああ、嫌だなあ。自分が、嫌だ。  教室から飛び出した俺は、なんとなく、トイレに逃げ込んだ。別に、泣きたいわけでも、なんでもないけれど、誰かに見られるのが、怖かった。今の自分は、何よりも気持ち悪いから。 「……」  ちらりと、鏡を見る。  笑い方を知らない、可愛くない顔。こんな自分の、どこを、結生は好きになったのだろう。クラスの女の子の方が、数倍可愛い。にこにこと笑う、彼女たちの方が、結生の隣に相応しい。 「おい、涙」 「えっ」  じっと、鏡を見ていたから、気付かなかった。結生が、トイレに入ってきていたことに。ぎょっとして結生を見つめれば、結生は困ったように頭をかいている。 「なにかあった? 横山が、涙の様子が変って言っていたけれど……」 「……ッ」  サッと、血の気がひいた。今、一番、顔を見られたくない人だった。自分が、汚くて、だから、そんな自分を見られたくない。のに、大好きな、結生に、見られてしまう。 「べ、つに……なんでも、ないけど」 「……ほんと? そうには見えないけど、」  結生は心配そうな顔をして、近づいてきた。ドクッ、と心臓が跳ねる。こないで欲しい、触らないで欲しい、みないで、みないで。  ぶわっと心のなかに霧がかかる。ぐらぐらと視界が歪んできて、今、自分がどこにいるのかわからなくなる。『おまえ、気持ち悪い』『穢らわしい』『さすが、インバイの子だ』なんて。そんな言葉が聞こえてきて。結生が、言ってるのかなって、思ったけれど、結生は、ただ、俺を見ているだけで。  耳鳴り、がんがんと、鐘がうたれるような、頭痛。 「う、るさい……! 話しかけるな!」 「えっ、る、涙……!?」  目の前にいる人が、怖い人に、みえて。俺は、思い切り、結生を突き飛ばした。そして、その場から逃げ出して、自分が突き飛ばした人が、結生だって気付いて。強烈な、後悔を覚えながら、走った。

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