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『うわ、インバイの子だ。近付くとセイビョウが感染るぞ!』
たとえば、罵声を、浴びせられたり、だとか。たとえば、裸にされて、写真を撮られたり、だとか。たとえば、カバンの中に、コンドームをたくさん、詰め込まれたり、だとか。そういうイジメを、ずっと、受けていた。
でも、全く、俺に非がなかった、というわけじゃない。
『涙、いろんなことが怖くなって、嘘をついたり、汚い言葉を言ったらだめだよ。余計に、みんなから嫌われちゃうから』
『言いたくて言ってるわけじゃ、ないし……』
『知ってるよ。俺は知ってる。でも、みんなが俺みたいに涙のことを知っているわけじゃない。言っちゃう前に、一呼吸おいてみなよ』
『ゆうは、簡単に言うけどさ、』
『深呼吸だよ、深呼吸。何をするにも落ち着いて考えてごらん』
俺は、たくさん嘘をついていた。俺は、たくさん汚い言葉を言ってきた。
自分が嫌いで嫌いで仕方ないから、そんな自分を見せたくなくてついてしまう、「俺はすごいんだぞ」という嘘。自分の殻が割れてしまうのを恐れて、周りの人を跳ね除けるように言ってしまう、酷い言葉。それらが、「母親が風俗嬢であること」以外に俺がいじめられる原因だった。
結生にも。同じことを、していた。嘘もついたし、酷い言葉も言った。自分でそういった言葉を吐いていて、いけないことだと後から後悔するのに、どうしてもそれを抑えることができない。結生を好きになってからも、いつ、彼に愛想をつかされるのかに怯える毎日だった。
『そんなに人に良くない言葉を言っちゃうのが怖かったら、いっそ人付き合いを最小限に抑えてみるとか』
『……最小限に?』
『俺とだけ、一緒にいようよ。俺なら、涙がなんでそういったことを言っちゃうのかわかっているから、涙のことを嫌ったりしないし』
優しい、結生。でも、結生は普通の人だ。俺みたいな、心の病を抱えている異常者と、一緒にいるべきじゃないと思う。
だから、そばにいたい、嫌われたくない。そんなことを思うこと、それは愚かなことだとわかっている。
わかっているけれど……俺は、結生のことが好きで仕方がなかった。
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