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「芹澤くん。もう下校時間よ」
「え……?」
肩のあたりを叩かれて、目を覚ます。目を、覚ました。自分のおかれている状況が、わからない。俺はベッドの上で寝ていて、そして俺の顔を覗いているのは、保健医。いつの間に、寝ていたんだろう。頭のなかがごちゃごちゃになって、俺は何も、言葉が出てこなかった。
「突然倒れちゃったっていうから、ここで休んでもらっていたの。微熱があるくらいだったから、あとはお家に帰ってゆっくり休んでね」
……倒れた、らしい。倒れたときの記憶が、ない。結生にゆうとしてしまったことを知られたところまでは、覚えているけれど、その先が、わからない。
……あれ、結生は、どこにいったんだろう。もう、帰ったかな。裏切った俺に愛想を尽かして、帰ったかもしれない。
「あ、すごく綺麗な夕陽。みて、芹澤くん。ほら、そこで寝ている藤堂くんも起こして!」
しゃ、と保健医がベッドのまわりのカーテンを開ける。そうすると、一気に光が差し込んできた。夕陽が、綺麗、らしい。けれど、俺はまた色がわからなくなってしまっていて、綺麗なのかどうか、わからない。
……いや、それよりも。
「結生……?」
「芹澤くんが倒れちゃったって、藤堂くんが教えてくれたの。芹澤くんをベッドに移してからも、ずっと芹澤くんのことをみていてくれたのよ。今は寝ちゃっているけど」
結生が、いた。俺のベッドの側で、こくりこくりと居眠りをしている、結生が。
「ん、……?」
なんで、結生はここにいるんだろう。なんで、俺の側にいてくれたんだろう。あんなに、酷いことをしたのに、なんで。
瞼を開けた、結生が。俺を、みつめた。そして、ふっ、と笑う。
「おはよう、涙」
「……ゆき、」
「帰ろう。俺のうち、今日もくる?」
「……ッ、」
ゆるして、くれるの? 俺は、結生を、傷付けたのに。このまま、結生に甘えるなんて、だめだって、そう思った、けれど。「帰ろう」って言葉が、嬉しくて、嬉しくて……涙が出てきてしまった。
まだ、結生のところに帰ってもいいの。結生の、側にいても、いいの?
「ちゃんと、あとから色々聞くからさ。その辺は、曖昧にしちゃだめだから。でも、まずはさ、俺のうちに行こう。な、涙。それでいい?」
「……、」
「うん」って言おうとしたら、声をあげて泣きそうになったから、こくこくと、頷いた。そうすれば、結生が、にこっと笑う。頭を撫でられて、そうすれば、白黒だったはずの世界に、色が付き始めた。赤い、赤い光が……結生の金髪を照らしていて、胸が、締め付けられた。
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