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「芹澤~、シャー芯一本頂戴」 「いいよ」 「……っていうか顔色良くないけど……やっぱ気分悪い?」 「あっ、いや……ううん、大丈夫」  二時間目の授業のあと、横山が話しかけてくる。昨日、彼に良くない態度をとってしまったのに、全然気にしていない様子。申し訳ないな、と思いつつ、横山がずっと話しているから、謝るタイミングも掴めない。  顔色が悪い、と指摘されるとひやりとする。朝の出来事を思い出してしまうからだ。本当に逢見谷の様子はおかしかったし、ゆうの意図はわからないし。頭の中がごちゃごちゃとしてきてムカムカしてくる。 「なあ、芹澤。次、体育さ。ペア組んでよ」 「へっ?」  そうしていると、横山と俺の間に、結生が割って入ってきた。そこで俺は動揺してしまう。そういえば……付き合ってから学校でまともに結生と話していない。どんな態度で話せばいいのかな……そう思って固まってしまう。 「えっ、えーっと……や、やだ……」 「えー! いいじゃんかよ~」 「やっ、やだってば……! 俺、横山と組むもん……」 「そうなの!? 先に取られたな~残念」  結生は残念そうに眉尻を下げた。横山はそんな結生をみて苦笑いをして「最近仲良くなってきたと思ったのに」とつぶやいている。  ……実のところ、横山と組む約束なんてしていない。ただ、俺は、結生と組んだらまともに授業ができなくなりそうで、嫌だった。目が合えばくらくらして、失敗してしまって、そんな恥ずかしいところを見られて。そうなるのが、嫌だった。  でも、嫌だ嫌だって言ったら、結生、嫌な気分になると思う。いくら、俺のことを理解してくれているからって。 「ゆ、ゆき……あ、藤堂」 「ん?」 「あ、あの……ごめん、ね」  なんとか、謝ってみた。そうすると、結生はにかっと笑って、俺の頭を撫でてくる。  結生に触られると、気持ち良くて、ふわふわして、とろーん、ってなる。もっと、触って欲しくなる。 「……ありゃ? 芹澤、藤堂に懐いてんの?」 「おおー、芹澤は俺のことめっちゃ好きだよ」 「えっ、ちょっ」  うっかり、横山の前だということを忘れていた。頭を撫でられることが、嬉しすぎて。クラスメイトに結生のことが好きって、こんな風にバレると恥ずかしい。 「やっぱ芹澤って可愛いやつじゃん」  でも、横山はそこまで驚くということもなく。結生も「ほんとにな」なんて言ってるし。俺ばっかりが、恥ずかしい。  ……ただ、俺は、高校では周りの人に恵まれているのかも、と思った。結構自分勝手な振る舞いをしていきているのに、みんな、優しい。  最近、不安も多いけれど。まったく希望がないってわけでも、ないのかもしれない。

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