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「どこ……いくの?」
涙が、色のない声で俺に話しかけてくる。ひな鳥のように、俺の後ろを着いてきながら。
にこにこと笑いながら俺に着いてくる涙は、どう考えても普通の状態じゃない。もしもここで俺がふっと消えてしまったら、同時に死んでしまうのではないか、そう思う。俺に縋り付いて、なんとか自我を保っている状態。そんな、細い糸でしか自我を繋ぐことができない、今の涙は非常に危険だ。
結局、俺は涙にかける言葉がみつからなかった。だから、逃げる。いつも、何か苦しいことがあったときには、大きな自然の中に逃げていた。だから、今もそんな俺の逃げ場所へ。涙に向き合うと決めたのに逃げるなんて情けないと思うけれど、今の俺にはそれしかできなかった。
ただ、行き先はあの丘ではない。あの丘までは電車に長いこと揺られなくてはいけなくて、今の涙を長時間電車という密室空間に置くのは危ないから、あの丘にはいかない。代わりに向かうのは――
「……海」
「……うみ?」
――海。これもまた近くにはないけれど、あの丘よりは近い。一度、涙に海を見せたいと思っていたから、ちょうどいい。今の涙は――海を見て、何を思うのだろう。
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