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 結生に、朝に会った女の人が俺の母親だと伝えた。結生はそれについては感づいていたようで、特に驚きはしなかった。それよりも彼女の前で俺が結生のことを「恋人」だと言ったことを、喜んでくれる。 「なんか、前を見てきているじゃん」 「……そう?」 「お母さんに本当のことを言ったんだから、向き合いたいって心の中で思ってるってことだよ。焦んないでさ、これからゆっくりがんばろう」 「……うん」  結生の言葉は、俺の背中を優しく押してくれる。なんだか、視界が澄んでいるような感じがした。――いや、感じ、というか本当に澄んでいるかもしれない。いつも視界の端がもやもやと歪んでいたのに、今日はすっきりと周りの景色が見える。  学校へ向かう、その道程がここまで穏やかな気分でいられるなんていつぶりだろう。人に会いたくないとか、教室という密集空間が怖いとか、そんな気持ちが特に湧き出てこない。「結生がいるから大丈夫」って思うことができる。  校門を入って、昇降口へ。特に知り合いという知り合いが周りにいることもなく、俺たちは静かに校舎の中へ向かう――そのとき。 「……あれ、涙」  ふと、俺を呼ぶ声。振り向けばそこに――ゆうがいた。 「なんだ――学校に来たんだ」  ゆうはうっすらと笑いながら、俺に向かって話しかけてくる。なんだか、言葉に覇気がない。顔もどこかどんよりと陰っている。 「なんか、すっきりしたような顔をしてるね」 「……結生がきてくれたから」 「ふうん」  へらへらと笑っているゆう。明らかに、様子が、おかしい。  結生が「いこ」とぼそりと言って、俺の手を引っ張った。俺はゆうの様子が気がかりで立ち止まろうとしたけれど、そのまま引きずられるようにしてゆうを横切ることになる。  そのときだ。 「――涙。今、君には空が何色に見えているの」 「えっ」  何か、ゆうが言った。でも、俺が返事をする前に、俺はゆうからすっかり離れていってしまった。

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