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「芹澤くん」 「ひっ……」  委員会の仕事が長引いた、昼休みが終わる時間。次の授業は移動教室だからか、クラスにはほとんど人が残っていなかった。俺の友人も、みんな先に行ってしまったらしい。なんとなく目についたのが、教室の端っこでもたもたと準備をしていた芹澤涙。ペンケースを落としたりしているから、残っていた他の男子にくすくすと笑われている。顔を紅くして必死にペンを拾って、でも慌てて手先が震えるからまた落として。そうした行動をしていたものだから、たまらず俺は芹澤涙に声をかけた。足元に転がってきたペンを拾って渡してあげると、ぎょっとした顔で俺をみてくる。 「……っ」  芹澤涙は俺からひったくるようにしてペンを受け取った。そしてシワができるほどに教科書をぐしゃっと抱きかかえて、俺から逃げようとする。  ……ちょっと、ショックだった。怯えられているのかもしれない、ということに。でも、それは仕方ないというか自業自得というか。彼を馬鹿にする人間と一緒につるんでいるのだから、彼が俺に怯えるのはごく当たり前のことだった。 「ま、待って芹澤くん」 「……、な、なに」  でも。俺は、彼と仲良くなってみたかった。少し邪な想いかもしれないけれど、彼を初めてみたときに「可愛い」って思っていたから。イジメられているらしく、他人におびえているけれど、笑っている顔も見てみたい、なんて思っていた。だから、ちょっと話してみたかった。 「……一緒に美術室いかない?」

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