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「ゆうちゃん最近楽しそうだね」  机に向かって課題をやっていた俺に、そんなふうに話しかけてきたのは(よう)。幼馴染であり俺の彼女でもある。  葉は俺のベッドの上でごろごろと漫画を読みながら、間延びした声でそんなことを言ってきた。脈絡のない発言に俺はどう返せばいいのか迷ってしまう。……だって、課題をやっている途中にそんなことを言われても。 「可愛い女の子とでも仲良くなれた?」 「えー? 可愛い女の子ね、そうだなー……結構仲良くなれたよ」 「ゆうちゃんモテるもんね~。変なことしないでよ?」 「しないから」  楽しそう。楽しそう……何か、最近の俺に楽しいことはあっただろうか。それは数えられないくらいにあるけれど、こうして葉に言われるくらいにそれが態度にでているなんて、相当なことだ。そんなになにか、俺にいいことあったかな……なんて考えて、一つ、心当たりを思い出す。 「あー……そうだ、うん、そう……可愛い子ともうちょっとで仲良くなれそうなんだ」 「えっ、なにそれ! ゆうちゃんからアタックしてるってこと!? 普通それ、彼女に言う!?」 「うん、すっごいアタックしてる。なかなか難しいんだけどねー……前よりは俺と話してくれるようになったんだよ」 「女の子と仲良くするのはいいけどアタックとかないんだけどー……えー、ゆうちゃん、ちょっとそれはやめてほしいなあ……」 「……相手、男だけどね」 「え」  そう、芹澤涙とちょっとだけ距離を縮められたこと。  彼と初めて話したあの時から、俺は何度も彼に話しかけた。彼はその都度俺を避けようとしていたけれど、回数を重ねるごとにあまり俺を拒絶しなくなってきた。少し目立った暴言なんかも言わないようになってきた。 「ちょっとゆうちゃん! 私のことからかったでしょ!」 「あはは、ごめん」 「最悪! ……で、その男の子、どんな子なの?」 「うーん? すごくいい子だよ。ちょっと引っ込み思案だけどすごく可愛い」 「ふうん」  ちょっとずつ、彼と仲良くなっている。それが、俺が最近楽しいと感じている理由なのかもしれない。  まあ、それに気づく葉も流石というか。元は親同士が仲良くて出逢っただけの幼なじみ。保育園からの仲だったけれど、いつの間にか恋人になっていた。今年中学生になったばかりの俺達のする恋なんてきっと小さなものだけど、今、俺が葉を好きなのは間違いない。  葉とこのまま幸せになれて、そして彼とも友達になれたら……すごく、いいのにな。そんな、明るい未来を俺は描いていた。

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