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「あ……裕志。お友達が来ていたの?」  夜になって、母さんが帰ってきた。母さんは涙を見るなり笑ってみせたけれど、どこか疲れた顔をしている。  母さんが、そんな風でいる理由は、俺もわかっていた。兄さんのことだ。 「母さん。兄さんは?」 「ああ……一週間だけ、入院することになったの。うん、私は抵抗があったんだけどね……仕方ないかなって」  母さんは、今日、兄さんを病院の精神科に連れて行っていた。前々から薬などで定期的に病院通いはしていたけれど、つい先日、自らの腕の肉を食べるといった自傷行為にはしってしまっていたため、さすがに危機を覚えて急遽連れて行くことにしたのである。  結果は、入院らしい。精神病院への入院というのはやっぱりマイナスなイメージがあったから、俺たち家族はあまりその方向で考えたくはなかった。でも、自傷行為までするようになってしまったのなら、仕方ないとも思う。母さんはきっと、断腸の思いで兄さんの入院を決断したのだろう。 「裕志。まだ、ご飯食べていないでしょう? それから……」 「あ、……芹澤です……」 「芹澤くん。芹澤くんは、今日泊まっていくの?」 「えっ……」 「泊まっていくなら一緒にご飯作っちゃうね。どうする?」 「えっと……」  母さんは俺の隣で戸惑っている涙をみて、気遣ったんだと思う。再び笑顔をつくって、涙に話しかけた。  結局、涙は俺の家に泊まっていくことになる。涙は人の家に泊まったことがないのかそわそわとしていたけれど、俺はちょっと楽しみだった。涙と一晩一緒に過ごせると思うと、どきどきした。

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