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「春原くん……もう、体は大丈夫なの?」 「元気そうでよかった~!」  年が開けてから、初めての登校となった日。クラスに入るなり、みんなが俺を歓迎してくれた。「葉が亡くなった」と認識しているのか「強盗にはいられた」と認識しているのかはわからないが、みんな俺を本気で心配してくれているようだった。 「あ、春原くん!」  俺の周りに友達が集まっているなか。教室にはいってきた「山田くん」が俺を見つけて寄ってきた。友達はみんな「うえ」という顔をしてしかめっつら。まるで「山田くん」に道をゆずるように、俺の側から少しだけ離れてしまった。 「強盗に刺されたんでしょ!? どこ!? どこ刺されたの!?」 「……お腹」 「すごい! 刺されるなんてアニメみたい! 傷みせてよ! 見たい見たい!」 「――ちょっと!」  好奇心旺盛に声をかけてくる「山田くん」。それを見ていた女子・内田さんが怖い顔をして「山田くん」を突き飛ばした。 「普通そういうこと聞く!? アンタデリカシーがないの!? 信じらんないんだけど!」 「い、いいよ、俺は大丈夫だから……内田さん……ありがと」  ……まあ、「山田くん」の言ったことはちょっと良くないかな、と思う。ただ、俺は別に傷ついたとかそんなことはなかったから、とりあえず笑っておいた。 「アイツ、ほんとサイテー! 春原くん、気にしなくていいんだよ!」 「あはは……うん、全然大丈夫だよ」  いや、だって。あんなゴミみたいな奴が何言おうと、どうでもいいし。人間の底辺が言っている言葉なんて、興味ない。  ……っていうかなんで「山田くん」はこうして普通に俺と同じクラスにいるんだろう。あんなアタマオカシイ奴に普通の教育したところで意味ないと思うんだけど。……まあ、どうでもいいか。「山田くん」はオカシイけれど、兄さんとは違うタイプのやつだろうし。無視していれば気に障ることもない。  問題は、こっち。 「……あ、春原くん。あれ、……芹澤くん、きたよ。……あー……えっと、じゃあ、またね!」  ……涙。  涙だ。「山田くん」のそれとは違う、明らかな病を持つ奴。そう、俺の兄さんと同じ、怪物予備軍。 「お、おはよ、ゆう。ま、また学校で会えて、その……」 「……」  恥ずかしそうに顔を赤らめて口ごもる、涙。ああ、知っている、涙の特徴。  そのいち。常に自信なさげ。仲良くなっても、なかなか俺に近づいてこない。「自分はこの人にふさわしくない」、そう思っているからだ。酷い扱いをされすぎて、涙の中で自分は人類の最底辺にいる。  そのに。プラスの感情を口に出せない。「嬉しい」「好き」、そういった感情に慣れていないから、あまりにも慣れていないから、体がそういった感情を言葉で出すのを激しく拒絶するのだ。まあ、表情を見れば何を考えているのかわかるから、俺は問題ないけれど。  単純に性格が内向的だとか、そういった問題じゃない。涙の場合は、オカシイのだ。涙はオカシイ。オカシイ。兄さんと同じ、キチガイ。 「俺も涙とまた一緒にいれるの、嬉しいよ」 「……っ、う、うん……!」 「ねえ、……ちょっと、一緒にこっちきてよ」 「……?」  俺は、こいつのこと……どうにかしないといけない。クズみたいなことをしたのに罰を与えられなかった兄さんの代わりに、どうにかしてやらないと。

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