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「……ゆう。いいの? 俺と一緒にいて」
「? なんで?」
「……新しい友だちとかと、一緒に帰ったり……」
「それは涙も一緒じゃないの?」
「ちっ、違うよ……俺とゆうは違う……俺には友達いないけど、ゆうにはいっぱいいて……」
「涙もここでは友達いっぱいできると思うけどねえ……まあ、それは置いておいて」
涙と一緒に校舎をでて、ぐるりと高校の敷地内を歩いてみる。それなりに有名な私立ということもあって、なかなかに広い。桜の木がいっぱい植えてあって、ひらひらとたくさんの桜の花弁が舞っている。
俺たちは、人気のない校舎の裏までやってくると、そこで立ち止まった。静かな場所だけれど、ここにも立派な桜の木が植えてあって綺麗だ。
そんな桜が散らす、花びらたちが。俺達に降り注ぐ。花びらに煽られるようにして、俺は涙に薄っぺらい言葉を吐く。
「涙、なにか勘違いしてない? 俺、色んな人と一緒にはいるけれど、涙のこと好きなのには変わりないよ?」
「……で、でも……」
「こうして俺が初めての放課後を涙と一緒に過ごしたいって思っている時点で気づいて欲しいんだけど? 俺、初めてこの桜をみたときから涙と一緒に見たいって思ってたんだよね。綺麗でしょ。昔はさ、綺麗なところに一緒に行ったりしていたじゃん」
「……俺、桜の色わからないよ」
「ほらまたそれ。色なら俺が教えてあげるから」
涙を、俺のもとにひきとめろ。俺に依存させろ。殺すのはそれからだ。
俺の中で怪物が喚く。根っこのない涙への憎悪の塊。でも、そんな怪物に踏み潰された想いが、静かに息をしていた。
高校生になって綺麗になった涙を、このまま、見ていたいという想い。
「わっ……」
涙の手をとり、ぎゅっと握る。涙はかあっと顔を紅くしながら、びっくりしたように俺を見つめた。
「これ、桜の色」
「えっ……?」
「どきってしたでしょ。桜の色ってそんな感じ」
「わ、わからない、よ……」
桜が舞う、そのなかで。新しい制服を着た涙が、きらきらとした瞳で俺を見つめてくる。
何もかもが、歪んで見える。目の前に在る景色は美しいもののはずなのに、ぐちゃぐちゃに澱んでいる。涙、俺は――俺は、君のことを好き、だった、嫌いだった、好き、嫌い、嫌い。舞い落ちる桜の花びらは、俺の心の破片のように。美しすぎるこの景色を、見ればみるほどに心が壊れてゆく、そんな気がした。はらはら、はらはらと。ゆっくり、しかし止まることなく確実に。
「涙――」
「ゆう……?」
「……俺は、何色に見える?」
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