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 あの人は、ストレスによる胃潰瘍によって吐血をしてしまったらしい。あの光景は凄惨なものであったけれど、命に別状はないようだ。ただし、このようなストレスをこれからも受け続けるとなると、また違う病気になってしまうだろう……というのが、医者からの説明だった。  救急車で俺とあの人が連れて行かれたのは、近くにある病院。あの人は胃潰瘍に加え栄養失調や脱水症状もあり、昏睡状態に陥っていたため、意識を取り戻すのには少し時間がかかるという。入院することになったため、俺は帰宅することを勧められた。 「……」  病院を出て、歩いて家に向かう。タクシーを呼ぶお金なんてないし、さして遠い距離でもないし。街から少し離れたところに位置するこの病院の周りは閑静であったから、そんなに煩くもなく、不快な想いをすることもなかった。  でも、静かな夜道を歩いていると、いろいろと考えてしまう。あの人のこととか、ゆうのこととか。なんだかいろんなモノが積み重なって、いつの間にか俺の周りには哀しい想いをする人たちばかりになっていた。何の因果なのだろう、俺という存在がいけなかったのか。思えば俺さえいなければその人たちが不幸になることはなかったわけで…… 「……っ、だめ、……だめだ」  いや、こんなことを考えてはいけない。「俺が死ねば解決する」なんて、考えてはいけない。そんなことをすれば、あんなに俺を愛してくれた結生の想いを無駄にすることになってしまうのだから。  一歩進めば、先の見えない闇がある。これ以上どんなに苦しいことが起こるのか、怖くて仕方ないけれど――進まなければ、変わることはできない。きっと少し前までの俺なら、絶対に進まなかった、むしろ逃げて逃げて、逃げすぎて、進み方を忘れてしまっただろう。でも……今は逃げることはいけないと、わかる。結生に愛されているという、それだけの事実が俺を後押ししていた。  どうすればいいのかは、わからない。未来が見えない恐怖は依然として残っている。でも……目を閉じない、耳を塞がない。それを誓うことだけはできた。

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