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「……俺ばっか」
再び家に戻った俺は、本棚にしまい込んでいたあるものを見ていた。昔、ゆうからもらった写真の束だ。ゆうのカメラをつかった撮ったものを、ゆうが現像して俺にくれたもの。暗い家の中で、一人でなにもせずにいたらまた心が塞ぎ込んでしまいそうになるから、とりあえず何かをしなくちゃ……そう思って、俺はこうしてゆうとの思い出を振り返っていたのである。俺を産んだあの人のことを考える余裕は、正直なかった。
写真は、百枚近くあった。はじめの方は、ひたすらに俺の写真ばかりあって、ちょっと恥ずかしくなる。
『あんまり、写真、とらないで。恥ずかしい……』
『うーん、でも、涙ってすごく絵になるんだよね。ごめん、ちょっと我慢して』
『俺、絵になんてならないよ……』
『涙ってさ、全体的に色素薄いでしょ……あ、コンプレックスだったらごめんね。あと、目がきらきらしてて本当に綺麗。なんだかね、自然とすごく合うんだ』
まぶしそうに目を細めながら、ゆうはたくさんの俺の写真を撮っていた。そんな彼のことを思い出して、なんだか切ない気持ちになる。あのころは、ただただ、彼といる時間が幸せだったなあって。
『なに? 涙も俺の写真撮ってみたい?』
『……うん。でも……俺、カメラ持ってない……』
『貸してあげる。かっこよく撮ってね』
しばらく写真を見ていくと、今度は何枚かゆうの写真がでてきた。ピントはぶれぶれ、構図も下手どころじゃない、それはもうだめだめな写真。俺が撮ったものだったけれど、全然上手く撮れなかったものだ。
『ごめんなさい……上手に撮れなかった……』
『謝らないでよ。じゃあ、一緒に撮ろうよ。俺が撮るからさ。こっちきて。俺に近付いて』
そして、最後にでてきたのが二人で撮った写真。ゆうはにこにこと笑っていて、俺は恥ずかしそうにゆうに寄り添っている。
その写真をきっかけにするように、そこから後に撮られた写真は、全部二人で写っていた。空を背景にして屋上で撮った写真、学校行事の合間に体育館で撮った写真、いろんな写真。高校に入学したときに、桜の花弁が舞うなかで校門で撮った写真もあった。
「……」
写真は、俺たちが高校一年生のときまで。二年になってからはゆうがスマートフォンを持ち始めて、それで写真を撮るようになったから現像された写真はない。それでもゆうはつい最近まで、俺と一緒に写真を撮ってくれていた。
……考えてみると、わけがわからなくなる。なんでゆうは、俺と写真なんて撮っていたんだろう。嫌いな人と、わざわざ二人で写真を撮ったりするだろうか。
ゆうが俺を憎むようになったのは、きっと、中学生のときにゆうが長い休みをとった、そのときから。きっとそこで、ゆうはお兄さんに彼女を殺されている。その頃を境に、写真に写るゆうの表情は少し変わっているけれど……俺が嫌いなら、写真なんて撮らなければいいのに。そう思う。
『生徒会長になったんだね、涙。おめでとう』
『……ゆうは、副会長? なんで生徒会にはいったの?』
『ん? 涙のこと、支えてあげたいからかな。……迷惑? もう、涙は昔と違って苦しい環境にいないし、そんな必要はないよね』
『そっ……そんなことない……! 俺、ゆうと少しでも一緒にいたい』
『……、……うん。ね、こっちきて。写真とろ。当選おめでとう!』
俺と一緒にいたゆうは、なにを考えていたんだろう。俺にヒドいことをしたいって、それだけのために笑顔を偽って俺と一緒にいたのだろうか。
写真の中に写る、ゆう。笑顔のなかに、少しだけ切なさが、浮かぶ。
『……ずっと、一緒にいられるよ。涙』
あのころは気付かなかった。
ゆうはいつも、俺をみて切なそうに笑うんだ。
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