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 逢見谷の話によると、逢見谷がゆうの家に行ったときにはすでに家にゆうの姿はなかったようだ。「コンビニに行ってくる」と言って出ていったきり、戻ってこなかったのだという。  ゆうの家は、少し、変だ。俺が思うようなことでもないかもしれないけれど。 『今日は親が家にいないんだ』 『あいつらね~、何考えているかわかんないや』  俺がゆうの家に行った日、ゆうが言っていた言葉を思い出す。明らかに親対して嫌悪を表していた、あのときのゆう。あれをみて、あのときの俺は何も思わなかったけれど……今思えば、すでにゆうは心のどこかで誰かに助けを求めていたのかもしれない。この俺に、一瞬でもあの弱みを見せた、それが証だと思う。  ゆうが嫌悪を抱く、親。病院から退院したばかりの息子を、こんな夜に一人で外に出すのもおかしい。仮にゆうの様子に何も異変がなかったから信頼して外に出したのだとして、なかなか帰ってこないのを疑問に思わないのもおかしい。なぜ? なぜ、もっとゆうのことを見てあげないの? そもそも何でゆうのことを精神病院にいれたりしたの? 「……だめだ、だめ」  親がちゃんとゆうのことを見ていてあげられたなら、ゆうがいなくなってしまうなんてことなかったんじゃないの? そんな思いに駆られて、思わずゆうの親に苛立ちを覚えてしまう。けれど、ゆうの家族に対してそんなことを思う権利は、俺にはない。だから、必死に苛立ちを沈めて、ゆうを探す。宛もなく走って、闇雲に探した。 「……ゆう、」  どこに、いるんだろう。  暗い夜道、虫の集る街頭。目的もなく走って、見つかるはずもない。どこか、ゆうが行きそうな場所は?――必死に考えて、考えて――ひとつ、心当たり。  頭の中に浮かんだのは、中学生の頃の、ゆう。およそ中学生とは思えないような、陰鬱な目をして、花を持って「ある場所」へ向かうゆうの姿。 「……あそこだ」  ぞわ、として。その悪寒が答えだと言っていて。  俺は急いで、その場所へ向かった。

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