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 ほとんど、人を連れてきたことのない俺のアパート。結生に続いて連れてくることになったのがゆうだというのは予想外だけど、信じられないことかといえばそうではない。ゆうは俺の汚いところを知っている人だから。  大きくて綺麗なゆうの家とは違って、ボロボロで汚らしい俺のアパート。ゆうもこんなに古いアパートに来るのは初めてなのか、不安げな顔をして俺の後ろをついてきた。 「……?」  階段を昇って、俺の部屋へ向かう。けれど、何か違和感を覚えて俺は足を止めた。  俺の部屋の扉が、なんか、変だ。遠目で見ても、おかしいとわかる。  慌てて早足で部屋に近づいて……俺は息を呑んだ。 「……っ」  扉に、大量の張り紙。真ん中に一枚だけ綺麗に張られている紙には「督促状」と書いてあって、その周りに乱雑に張られている紙には汚い文字で脅し文句が書かれていた。  ……こんなことをされたのは、初めてだ。なんで今更?と考えたところで、ぱっと俺を産んだあの人のことが脳裏に浮かぶ。今、あの人は入院している。仕事……いや、借金返済のための身売りができない状態にある彼女を「逃げた」と勘違いした取立屋が、脅しにきたに違いない。 「……涙?」 「あっ、なんでもない、気にしないで」  俺は焦って紙をはがしてゆく。俺が外にでている間に、取立屋が来たということだ。正直、あのまま家の中にいたとしたら……俺はどうなっていたかわからない。ゾッと寒気を覚えると同時に、あの人はこんな人たちを相手にしていたのかと、恐ろしくなる。  あまりにも違う世界に、ゆうは驚いていた。呆然と、俺の手に握られている督促状を見つめている。  俺だって、本当はすごく怖い。けれど、ここでそんな様子を見せたら、ただでさえ不安定なゆうはどうなってしまうのだろう、そう思うと強がる以外の選択肢はなかった。  なんでもない顔をして、ゆうを家の中へ案内する。

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