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 ゆうは俺のほとんどを知っている。俺の家にお金がないこと、あの人がよくない仕事をしていること。だから、酷い有様の俺の家の中をみても、驚いたような顔をしなかった。  ただ、不安げに瞳を揺らめかせていた。やっぱり、さっきの督促状と脅迫の紙の山をみた後にこの家の中を見れば……恐怖を覚えるかもしれない。上の方を生きていたゆうにとっては、もはや俺の家の状況はアングラな世界。入ってはいけないところに来てしまったとか、そう思っているのかもしれない。 「……お湯くらいはでるから、シャワー……浴びてきたら?」 「……涙、」 「……何も、気にしないでよ。俺、もうすぐこの家と、縁切るし……」 「えっ……」 「俺は大丈夫だから、本当にもう大丈夫、だから何も気にしないで。今日は早く寝よう? ゆう、疲れているでしょ?」 「で、でも……」  ゆうをこの家に連れてきたのは、単純に消去法で連れてくるしかなかったからであって、連れてきたかったわけじゃない。ゆうには、この家を見られたくなかった。  だって、俺の弱さを一番に知っているゆうがこの家を見たなら。俺が封じ込めた弱さをまた掘り出して、引っ張り上げてしまうかもしれない。俺の人生が狂った原因でもあるこの家を、ゆうが見たのなら。目を背けることで忘れようとしていた俺の弱さを、本当は拭うことなんてできていなかった俺の弱さを。見つけだしてしまうかもしれない。  そうだ、俺にはこの家に向き合う勇気なんてないのだ。 「涙、あのさ、……!」  ゆうの視界にあまり家の中が入らないように、ぐいぐいと押し出すようにして浴室に案内すれば、ぴたりとゆうが立ち止まる。何を言われるのだろうとぎょっとしていれば、ゆうはゆっくりと振り向いて俺を見つめた。  唇は震えていて、瞳は虚ろ。何かに、強い恐怖を感じている様子。しかし、ゆうはごくりと唾をのみこむと、そっと俺の手に触れて、か細い声で言う。 「……お風呂、一緒に入って」 「……へ?」 「ち、違う、……変なことをしようとしているんじゃない、……変なことをしようとしたらまた殴っていいから、」 「……じゃあ、なんで?」 「……お願いだから、……涙」 「……俺は脱がないけど」 「それでいいよ、」  いきなり何を言い出すんだろう、俺はさすがに不信を覚えた。一度でもレイプしようとしてきた相手のその頼みを、そう簡単にうなずけるわけがない。  でも、ゆうの目があまりにも真剣だった。怯えてはいるけれど、真剣だった。  何を考えているのかはわからない。けれど、そのゆうの瞳を、なぜか俺は裏切れない。

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