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俺のお母さんは、肌が白く、髪がさらさらとしていて、長い。そんな彼女は、明け方の海を背景に立つとひどく美しく、俺は、この人はこんなに綺麗な人だっただろうかと驚いてしまった。
お母さんは、学校へ向かう俺たちに笑顔で手を振って送り出してくれた。俺は、その光景を頭に焼き付けるように、ずっと見ていた。目が離せなかった。
「手、振り返さないの?」
「あっ……ぼーっとしてた」
彼女との距離が離れ、その表情がよくわからなくなってしまうまでになる。そこまで離れてやっと、俺は、お母さんに手を振った。けれど、そんなに離れてもわかるくらいに、彼女は俺が手を振った瞬間に嬉しそうに笑って、叫ぶ。
「――涙! 結生くん! いってらっしゃい!」
それを聞いた結生が、へへ、と笑いながら俺の頭を撫でてきた。「返してやれよ」そんな言葉を言いたげに。
俺は、立ち止まり、体をお母さんに向けて。そして、太陽の光が反射する、眩しい海を見て。は、と息を吸う。
――ああ、眩しい。目が眩むほどに、眩しい。これが、これから生きていく俺の世界なのだと思うと、こうして正面から向き合うのがなぜか、怖い。新しい世界へ飛び込んでいく恐怖に、俺は足が震える。
頭に、言葉を浮かべる。今まで言えたことのなかった言葉は、喉まで出てきてつっかえる。何度も深呼吸をして、引っ込んでしまう言葉を引っ張りあげて、そして、一気に吐き出すようにして、叫んだ。
「――いってきます……!」
潮風にのって、俺の声はお母さんに届く。お母さんは楽しそうに笑って、ぶんぶんと手を振り続けている。
時間が、なくなって。俺はようやく歩き出した。お母さんに背を向けた途端に、なぜか俺の目からはぼろぼろとなみだが溢れてきてしまう。
なぜ、こんなに泣いてしまうのか、わからない。太陽の光が眩しすぎたからだろうか。
声をあげて泣き続ける俺の肩を、結生が黙って抱いてくる。「がんばったな、涙」、その一言に、俺はまた、大泣きしてしまった。
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