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やがて鬼となる母と魄と名付けられた息子との徒然なる日々――【春の月】

◇ ◇ ◇ ◇ ほう、ほう……と何かの鳥が鳴く声が半分開いている格子戸の外から聞こえてくると、今はもう雲に隠れてしまった満月が浮かんでいた場所を睨むようにして見つめてから、ため息をついて重い腰をあげた――。 これから――拷問といえなくもない【おぞましき公務】が私を待っている。まるで、いつまでも追いかけてくる不気味な月のように――無力な私へとじわり、じわりと迫り尚且つ執拗に襲ってきて決して逃してくれないのだ。 後ろ髪を引かれる思いで魄を部屋に残し、木偶の童子に世話を任せた後――私は提灯を手に持つと、既にほとんどの守子達が寝静まる暗い廊下をひた、ひたと歩いていく。 これから――私は【情欲という魔に憑依された獣じみた守子達】に、むしゃむしゃとその身を喰われるのだ。 「ふぇぇーっ……ふぇぇっ……ほぎゃぁー」 私の憂鬱な気分を察したのであろうか――。 寝所を出ようとした直前に、木偶の童子の両腕に抱かれて今まで眠そうにうとうとしていた魄が――愛しい我が子が、けたたましい大きな声で泣き始めたのだ。 ――ぎゅうっ…… それを聞いた途端、私は――寝所から出ようとしていた足をぴたりと止めて魄の元へと一度引き返した。そして、その紅葉のように小さく、ほんのりと汗ばんだ柔らかな手を握る。 「きゃはっ……きゃははっ……」 その我が子の満面の笑顔を見て――僅かばかりの安堵と勇気が出た私は名残惜しかったものの、固く繋いでいた手を離した。 (拷問といえるような【夜の公務】をするのも全ては愛しい我が子を養う為――) 改めて自分を納得させるために固く決意した私は――きっ、と前を真っ直ぐに見据えると覚悟を決めて寝所から出て行き、その醜き口を開きながら私という弱き獲物を待ちわびている【情欲に憑依された魔獣達】のいる部屋へと向かっていくのだった。

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