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やがて鬼となる母と魄と名付けられた息子との徒然なる日々――【春の月】

◇ ◇ ◇ ◇ ――もうすぐ【雄雛祭】が開かれる日だ。 【雄雛祭】――王宮内で行われる季節行事の一つであり、毎年――中庭に埋められている桜の見頃である3月3日に行われる。 海を渡った遥か遠くの異国では【お雛祭】というこの行事に似たものが行われるるが、それとは違い――この【雄雛祭】では王宮内に住む0歳から5歳までの男童の幸せと未来に待ち受けるであろう大いなる活躍を祈り開かれる祭りなのだ。 白昼の王宮内は、その【雄雛祭】に向けて準備をする者達で溢れかえっていて、ばた、ばたと忙しなく廊下を駆けずり回る守子達の姿を見て――又しても憂鬱な気分を抱いてしまう。 【雄雛祭】は王宮内の恒例行事のため――必ず参加しなくてはならない。それは、つまり産まれたばかりの無垢なる我が子――魄の姿を信頼など互いにこれっぽっちも抱いていない守子達の目の前で披露しなくてはならないということだ。 所詮、この国の王である魄の父親――屍王の妾の内の一人である私とその息子の魄は王宮内にいる守子達の格好の暇潰しである存在でしかない。 ――私が魄を両腕に抱き、彼らの前に姿を現した所で奇怪な目で見られる事は容易に分かりきっていた。 噂に聞いた所によると――魄が生まれてから暫くしてから屍王と本妻である葉狐様との間に王花と名付けられた男の御子が産まれたため、その子も【雄雛祭】に御参加されるらしい。 そうなれば、否が応にも――妾の子である魄は本妻との間に産まれた王花という御子様と比べられるに違いない。 ――とん、とん…… 悶々としながら守子達が忙しなく駆け回る廊下を憂鬱な気分のまま歩いていた私は――ふいに肩を叩かれて、はっと我にかえると慌てて振り返った。 其処には、憂鬱な気分の私に反して満面の笑みを浮かべながら何かを持っている木偶の童子が立っているのだった。

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