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やがて鬼となる母と魄と名付けられた息子との徒然なる日々――【春の月】

◇ ◇ ◇ ◇ ――遂に雄雛祭が行われる日を迎えた。 その日は朝早くから豪華な行事衣を身に纏った守子達や警護官(下っ端の警護人らも含む)が王宮内を駆け回っていた。昼頃には異国から王族や王族に近い客人らが到着するため、出迎えるための準備に追われているせいだろう。 また――守子達の中にはこの日の為だけに特別に選出され、異国の客人らを満足させるための《歓迎の舞》を踊る者達もいる。その直前の練習をする舞い手達もわい、わいと慌てながら王宮内の廊下を走り回っていた。 (――皆、大変そうだ……しかし私には関係ないこと……私はただ、この魄の幸せだけを祈っていればよい……やはり、この子にはこの澄んだ水色がよく似合っている) 「……ふっ……ふぇっ……ふええっ……きゃはっ……きゃはは……」 「……魄、その着物――よく似合っていますよ……私の可愛い子。さあ、雄雛祭に参加しに行きましょう――私は貴方の幸せだけを、天に召します禍厄天寿様に御祈りしますからね」 ――ふにゃっと顔を緩めながら太陽のように輝かしい笑みを浮かべてくる魄を見つめ、釣られて穏やかに微笑みを浮かべながら私は愛しい我が子の耳元へ囁きかけると、そのまま雄雛祭に参加するため行事の舞台となる【祝寿殿】へと木偶の童子と共に参るのだった。

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