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やがて鬼となる母と魄と名付けられた息子との徒然なる日々――【夏の月】
◇ ◇ ◇ ◇
それから季節と時は目まぐるしく巡り、魄にとって三度目の夏がやって来た。
ようやく三歳となった魄だが――相も変わらず王宮内の守子共からは奇異な目で見られ、まるで檻に入れられた観賞動物の如く不当なる扱いを受け続けていたため、私は必要最低限でしか魄を王宮内の他の部屋へは近寄らせる事はしなかった。無論、魄が実の兄のように慣れ親しんでいる木偶の童子の部屋や一部の信頼出来る守子達の部屋、それに厠や水行場などは別なのだが――とにかく、不必要に下劣な守子達の目には入れないようにしていたのだ。
それに魄に危害を及ぼしかねないのは、何も大人だけではない。私と魄に奇異な目を向ける魔獣じみた守子共に息子達もこの王宮内には、わらわらと蔓延っているのだ。子供とはいえ年齢など関係ない――。子は親を見て育つ――故に、いつあの魔獣じみた父親である守子共が魄は私と屍王との不義の子だと耳打ちしても何らおかしい事はないのだ。
――魄のような澄んだ心を持った子だけでなく、中には残酷なる感情を幼い頃から抱いている者もいる。私には、それが痛い程に分かっていた。
「は、はうえ……あの、あの……しょの……」
「――どうしましたか、魄?はっきり話さなくては……お前の伝えたい事は分かりませんよ?」
「あ……あの……ぼ、ぼくの……ち……ち……いえ、なんでもありましぇん……」
しかし、不必要に外に出さない弊害も勿論ある。魄は己の意見をはっきりと伝えられない――。呂律が回っていないのは年齢のせいもあり、時が立てば解決するのかもしれないが――他の周りの同年代の童を見てみると、その子らのほとんどは己の意見を親に伝えている。
少なくとも、肯定なら「はい」と――否定なら「いいえ」と親に伝えられているというのに――。
魄は最後まで己の意見を言わず、母である私に対してさえも、おどおどとして途中で口をつぐんでしまうのだ。
ふう、と軽くため息をついたその時――、
「あっ…………尹様、それに魄様もいらっしゃいましたか?ちょうど良かった――ある方から西瓜をこんなに頂いたのです……どうです、今みんなで召し上がりませんか?」
満面の笑みを浮かべながら、抱え込むようにして大きな西瓜を持った木偶の童子が縁側に腰かけて夕暮れ時の橙色に染まっている空を眺めている私と魄の元へと訪ねてくるのだった。
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