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やがて鬼となる母と魄と名付けられた息子との徒然なる日々――【夏の月】
「ああ……木偶の童子――それは良いですね。西瓜ならば幼い魄も食べやすいでしょう……魄、初めての西瓜を食べてみますか?」
「え、えっと…えっと……しょの……」
「……魄、きちんとお前の言葉で伝えなさい……これだから――あなたはっ……」
その煮え切らない我が子の態度を見て、もやもやとした得たいの知れぬ感情を抱いてしまった私は母としてあるまじき言葉を――魄に吐き出そうとしてしまう。
すると、そのやり取りを脇で見ていた木偶の童子が咄嗟に肩を叩いて――私の魄に対して行おうとしていた愚かな行為をさらりと制止してくれたため咄嗟に酷い言葉を魄に投げ掛けてしまう寸前だった口を慌てて閉じるのだった。
ととっ……と木偶の童子の背中に隠れるように魄が覚束ない足取りで彼の元へと行くと、そのまま恐らく私に尋ねる予定だった筈の言葉を魄は問いかけるのだ。
「できゅの……どうじ……できゅのどうじ……しゅいかって……なーに?」
「――いいですか、魄様……西瓜というのは……このように――中味が真っ赤で瑞々しい果物なのですよ……さあ、貴方様の母である尹様の共に今度こそ召し上がりましょう」
「う、うん……ありがとう……で、できゅの……どうじ……」
ちらり、と――遠慮がちに弱々しい表情で私を上目遣いで一瞥して木偶の童子の背中に隠れながら礼を言う臆病な魄を改めて見て――私は悟ってしまう。
魄が、このように弱々しく臆病で自分の意思の主張すら言えないのは……魄が私を母として完全に認めてないからではないのかと――。
いくら慣れ親しんでいる仲とはいえ、実の母である私よりも木偶の童子の方が魄にとって思いを告げやすい相手なのだと――。
魄は幼いながらも、実の母である私に遠慮しているのだと――。
「――魄、魄……西瓜は……美味しいですか?」
「う、うん……おいしい……でも――でも――ち……っ……」
「――何ですか、はっきりと申してみなさい!!」
つい、不安と心をかすめたある恐怖から声を荒げてしまう。
「ち、ちち……うえ……と――いっしょに……しゅいかをたべたい……うっ、うっ……うわぁぁん……は、はうえ……ははうえ……なじぇ……ぼくには――ちちうえがいないのでしゅか!?ふぎのことは……なんなのでしゅか?」
「……は、魄……あなた……それを誰から……聞いたのですか?」
――ざりっ……
魄の口からその言葉を聞いた途端に血の気が引き、目眩から倒れそうになりながらも火がついたかのように泣きじゃくる魄を抱き締め尋ねると――すぐ側から何者かの足音が迫りつつある事に気付き慌ててそちらへと振り向くのだった。
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