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やがて鬼となる母と魄と名付けられた息子との徒然なる日々――【夏の月】

「やはり、お主の童は……泣いているではないか。父親を求め――切なげに泣いておるぞ……尹よ――面と向かってお主と話すのは……久方ぶりだな……それに、ふん……お主の犬の木偶の童子か――その木偶という名の通り、なんという腑抜けた間抜け面だ――見るだけで虫酸が走るわ!!」 ――つか、つか…… どかっ……!! 「な……っ……!!?」 「なっ……何を――何をなさるのですか……木偶の童子……木偶の童子……大丈夫ですか!?」 唐突に私達の前に姿を現した警護人の狂善は――泣きじゃくったまま私に抱きついてきた魄の様子を一瞥すると、吐き捨てるように言い放つ。すると、その直後に――おろ、おろと戸惑うばかりの木偶の童子の姿を捕らえると急に凄まじい怒りを露にしつつ、そのまま彼の方へと駆けよると――そのまま私と魄の眼前で身動きすらとれずに佇んでいた木偶の童子の体を突飛ばし、有ろう事か――抵抗すら出来ない彼の体を蹴り付けたのだ。 「もう、お止めくださいませ!!狂善――私は貴方と話す事など……何もありません!!この子に父親などいないのです……魄、この王宮内にあなたの父親はいません……どこか遠い場所に行ったのです――無論、新たなる父親も……あなたにはいない。狂善――あなたが魄の新たなる父親になるなど……それこそ虫酸が走ります――早く、此処から立ち去るのです!!」 「…………いずれ、後悔するぞ――尹よ……お主、父親がいない事でこの童に救いようがない程の多大な悲しみを背負わせるつもりか?これからずっと、その苦しみに押し潰されようとも……この童の母として誇るつもりか?子にとって……片親がいない事が……どれ程に苦しみを背負わせるのか――お主は分かっておらぬようだ……それに、それに……尹――我は……昔からずっと……お主の事を……あ――」 と、先程まで木偶の童子の体を散々痛め付けていた狂善が――不意に神妙な顔つきをしつつ真面目な口振りで近づいてくると、そのまま私の体を抱き締めてくる。 ――ざざぁぁぁっ…… と、その時――唐突に強い風が辺りに吹き荒れ、それとほぼ同時に私達がいる辺り一帯が濃厚で甘い花の香りに包まれた。 「できゅの……どうじ――できゅのどうじ……だいじょぶ?いたい、いたいのとんでけー……って……できゅのどうじ……あまいかおりがしゅるよ?」 「……魄様――大丈夫、大丈夫ですよ……あんな奴には……け……ません……から……魄様、少しだけ離れていただきたい」 辺り一帯が濃厚な甘い花の香りに包まれた途端、はっ――と我にかえり、私は慌てふためきながら狂善に傷つけられたせいで地面にうつ伏せに倒れている木偶の童子と彼を心配そうに慰めようとしている魄の様子を確認するのだった。

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