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やがて鬼となる母と魄と名付けられた息子との徒然なる日々――【秋の月】
◇ ◇ ◇ ◇
――魄を産んでから六度目となる秋の夜長。
りーん、りん……りー……りーん
月日が経つのは早いもので、ほんの少し前までものも録に話せぬ赤ん坊だった魄は――既に六歳となっていた。
正直、今時分の年齢からが最も多感な頃となるに違いない。
三歳の頃ですら、母である私の気持ちを敏感に察し、たとえ誤魔化そうとも――それを嘘と見抜けた賢い子だ。
(気を引き締めていなければ――私が夜な夜な、こうして忌まわしき魔獣に身を差し出しているというおぞましい事実も……あの子に勘づかれてしまうかもしれない……それだけは、それだけは……何としてでも阻止しなくては……)
憂鬱に感じながらも――淫靡なる獲物としてしか私を見ようともしない魔獣の寝所まで来たため、軽くため息をしてから普段通り――襖を開けた。
「……遅い――っ……てっきり逃げ出したかと思うたわ……ほれ、はよう――此方に寄るがよい」
にたあ、と嫌らしく下品な笑みを浮かべる守子の汚らしい爺の笑みを目に入れた私は――それだけで既に吐き気を堪えきれないというのに、おずおずと爺の方へと近づいて行った途端に強く腕を引き寄せられ、口吸いをされたせいで――益々、吐き気が堪えきれなくなってしまいそうになる。
ずちゅ……ぬちゅっ……ぐちゅ……
私の体の底から這い上がってくるような嫌悪感などお構い無しに遠慮なく舌を私の舌へと絡め付け、逃れようとしても蛇のようにしつこく己の舌で私の舌を引き寄せ――絡めたり、吸い付いたりと好き勝手してくる。
――ぬちゅり……
爺の口から私の口をゆっくりと名残惜しそうに引き離した途端、互いの舌に銀糸が結ばれた。
「ふふ……相変わらず、貴様の厭らしき口内は美味よ……ほれ、お楽しみはこれからじゃ……はよう、その邪魔な衣を脱がぬか……それとも、脱がせてほしいのではあるまいな……息子がいるにも関わらず――淫乱な奴め」
「はあっ……はっ……んっ……」
激し過ぎるその口吸いに生理的な息苦しさと、抗おうとも抗えない忌まわしき快感とが体の中を駆け巡り、私は脱力して爺の体への身を任せるような体勢になりつつも――肩を上下させながら息を整えた。
「おお、そうじゃ……貴様の息子はそろそろ良い年となったであろう――どうだ、この場に呼び……三人で身を絡め合うのも一興だとは思わんか?」
「そ、それだけはっ……それだけは……どうか、どうか……堪忍して下さいませ」
「ふん……つまらぬ男じゃ。あい、分かった、貴様の息子は此処には呼ばぬ――じゃが……」
土下座しながら必死で頼み込む私の姿を見て、見下したように醜悪なる笑みを浮かべながら爺は冷たく言い放ったが、ふいに――愉快げに笑うと、そのまま指を鳴らす。
――すっ……
急に開けられた襖の先には――爺の息子である三人の男童が立っていたのだった。
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