22 / 89

やがて鬼となる母と魄と名付けられた息子との徒然なる日々――【秋の月】

「な……っ……なんなんですか……この童達は……っ……!?」 「何とは心外じゃな……我が息子達は物ではないぞ?さあ、お前達……狭き鳥籠の中で暇を持て余していたであろう――この父の代わりに淫乱なる獲物の相手をしてやるのだ――前々からこの父が教えてやった通りに家ってみせよ」 「「畏まりました……御父上様」」 と、三人いる内の見目が瓜二つな童達が寸分違わずぴったりと口を揃えてから爺の言い付けに対して答える。おそらく、この童達は双子で御父上と呼ばれて満足げに――しかし下品な顔付きでにやにやと笑みを浮かべている爺から目に入れても痛くない程に甘やかされて育てられているに違いない。 その証拠に、私という暇潰しの獲物を目掛けて笑みを浮かべながら、じりじりと歩み寄ってくる双子のその様は――醜悪なる父親に瓜二つなのだから――。 「その象牙の如く美しき艶やかな肌――誠に劣等種とは思えません……御父上が言うには、年齢が近しい御子がいるのだとか――ぜひとも、この目で見てみたいものです……胡蝶、あなた――この獲物を押さえつけておきなさい」 「……はんっ――こんな淫乱野郎の息子だぞ?どうせ録な奴じゃないぜ……それよりも黄蝶兄様こそ、先にこいつを押さえつけいてくれよ……俺がじっくり味見してやるからよ」 ――双子の兄である黄蝶とやらは、ずり落ちそうになった黒ぶち眼鏡をくいっと直しながら、父親である爺よりは僅かばかり冷静な口調で弟である片割れの存在へと言い放った。 ――双子の弟である胡蝶とやらは、父親譲りの下品で醜悪な顔付きで私を壁際にまで追い詰めてから粗暴な口調で兄である片割れの存在へと言い放った。 「仕方がないのう……我が押さえつけるのを手伝ってやるとしよう――おい、翻儒……翻儒……お前、其処に突っ立って何をしているっ……はよう、二人の賢い兄らと父であるこの我を手伝わんか……まったく――愚図の……出来損ないめがっ……」 小刻みに体を震わせ、抵抗する事も――まして逃げる事など当然の如く頭の中に選択肢がない無力で惨めな私は――ただ、ただ……この地獄のような時が過ぎ去るのを待つしかないのだ。 そして、醜悪なる爺と二人の息子にばかり気を取られていた私だったが、ふっ――と寝所から視線を感じて慌てて目だけで襖の方を確認する。 すると、其処には――魄と同い年かそれよりも少し上くらいの年齢の男童が爺から怒鳴られたせいで、びくっと体を震わせて怯えながら突っ立っている光景が広がっているのだった。

ともだちにシェアしよう!