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やがて鬼となる母と魄と名付けられた息子との徒然なる日々――【秋の月】
◇ ◇ ◇ ◇
全てとはいかずとも私の心の内を、あろうことか魔獣の爺の息子である翻儒へと打ち明けた私は僅かに名残惜しく思うも、互いに今日の事は決して誰にも話さない――と指きりげんまんをして約束しおえてから別れると魄と木偶の童子が待っている私の寝所へと戻って行った。
その後、魄と木偶の童子と共に朝御飯を食べようと机に向かった私はどうしても箸が進まなかった。無理に食べようとしても、体中がそれを拒否する。その理由は嫌というほど分かりきっていたが、不思議そうに此方を見つめる魄と木偶の童子の視線から逃れるのは容易ではない。
「……母上、母上……体調でも悪いのですか?」
「え、ええ……実は――先程から怠くて……ですが、安心……し……て」
「それでしたら、母上……これだけでも召し上がって下さい……熟した柿は栄養が沢山あると、ある方からお聞きしました……その方が待ってきて下さったのです」
ひくり、と口元が歪むのを――私はきちんと隠しきれていただろうか――。じわり、じわりと全身を嫌な汗が伝う。全身を伝う汗ならば衣服で隠し通せるが、思わず歪んでしまった口元は顔に出てしまうので――うまく隠せた自信がない。
(よ、よりによって……柿だなんて……柿は――柿だけは……駄目なのです……優しい魄よ――薄情な母をお許し下さい……)
「申し訳……ありません――魄、私は食欲がないのです……その柿は――貴方と木偶の童子とで召し上がって下さい」
「…………」
しょんぼりと、魄が明ら様にしょげているのが分かる。それを見た私はまるで裁縫針のように鋭く小さな無数の針が一気に突き刺さってくるかのように深く心を痛めた。
「魄様……尹様、ある方から頂いたのは柿だけじゃございません……ほら、さつまいももこんなに頂いたのですよ――召し上がるのは無理だとしても、落ち葉をかき集めて三人で焼くのは無理じゃありません……さあ、共にこのさつまいもを焼きに行きましょう!!」
そんな私の只ならぬ雰囲気と、魄の落ち込んでいる様子を敏感に察知した木偶の童子が慌てて提案してきた。
その木偶の童子の様子を見るに――きっと彼は私が魔獣じみた奴等から何をされているのか既に分かっているのだろう――。
そう思うと、益々惨めな気持ちに支配され――私は頭を垂れ下げるしか出来ないのだ。
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