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やがて鬼となる母と魄と名付けられた息子との徒然なる日々――【冬の月】
◇ ◇ ◇ ◇
しん、しん……と真綿のように真っ白な雪が降り続き――王宮の中庭に所々咲いている椿の花を赤から白へと変化させる程に積もっていく。
――魄が産まれてから九度目の冬が訪れ、ついこの間まで紅葉のように小さな手をしていた小さな童子だった我が子は――九歳になっていた。
最近、気がかりな事が幾つかある――。
「魄、魄……おはようの挨拶は如何しましたか?それとも、あなたには口がついてはおらぬのですか?」
「…………」
魄が――母である私と話そうとしない。いや、それどころか――目すら合わせようとしないのだ。それに、つい最近まで共に入っていた風呂にも私と入ろうとしない。木偶の童子とは――目も合わせるし、口もきき……風呂にも入るというのに――。
――命をかけて守り抜こうと誓った息子から存在さえも無視される事は、私にとって何よりも辛い事だ。
そうなった原因を悶々と考えてみても――思い当たる事は一つしかない。
(きっと――魄も知ってしまったのだ……私が王宮内に蔓延る魔獣じみた奴等から……やれ、淫乱だ……惨めな犬だと蔑まれているのを――知ってしまったのだ……しかし、なるべく知られないように外へは出さないようにしているのに……何故……何故、知って……)
ちらり、と目線を向けると――魄が今や幼馴染みとなった翻儒と共に遊ぶ姿が目に入ってくる。木偶の童子が――魄に私の秘密を漏らすとは到底思えない。
ならば、答えは一つしか考えられない……。
目の前で魄と愉快げに遊ぶ魔獣じみた守子の爺と血の繋がりがあるこの翻儒が――漏らしたに違いない。
――ころ、ころ……
と、不意に畳の上を転がってくる独楽が私の足元でぴたりと止まった。先程から、魄と未だに完全には信じきれていない翻儒とが遊んでいた独楽だ――。
「……あ、あの……申し訳ありません――ゆ、尹様……」
「…………」
私は氷のように冷たい瞳で翻儒を睨み付けると、そのまま何も言わずにその場から去り――逃げ出すように厠へと向かう。
そのまま部屋から出る直前に、私に向けられた翻儒の切なげな表情が――固く閉じた私の瞼の裏に嫌というほどやきついてしまう。
こんな事は魄と友達になってくれた優しい翻儒に対しての単なる八つ当たりだ――と心では分かっていても、容易には受け入れられそうにもなかった。
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