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やがて鬼となる母と魄と名付けられた息子との徒然なる日々――【冬の月】

◇ ◇ ◇ ◇ 真綿のように真っ白な雪の絨毯の上で、その双子の兄弟は息絶えている――。 首筋には寸分違わない場所に付けられた縄の痕――。 互いに首筋の同じ場所を縄で何者かに絞められ、天を仰ぐように上を向けた仰向けの常態で左手首に縄を付けられて繋がっているという死に様も同じなのだ。ただ、唯一違う箇所というのは――死に絶えた彼らの右手に持っているものが生前私を散々追い詰めた【滑りけがある溶けかけた柿】が入っていた空の瓶か、【粘り気がある特注品の葡萄酒】が入っていた空の瓶かだけだ――。 見目が瓜二つである双子の死に様に――相応しい、と私は心の中で不意に思ってしまった。周りに集まっている野次馬達は双子の兄弟がこのような事態となった理由を、これぞとばかりに、あれこれ好き勝手に囁き始め――私の耳に容赦なく入り込んでくる。 【黄蝶様と胡蝶様は――よもや自害なされたのでは?】 【いやいや、何者かに手にかけられたのでは?】 【××殿の金を奪い取る為に父親を手にかけ罪の重さに耐えきれず心中なさったのでは?】 よくも、まあ――ぺら、ぺらと好き勝手に言葉が出てくるものだ。誰一人として、私を散々追い詰めた【溶けかけた柿が入っていた空の瓶】と【特注品の葡萄酒が入っていた空の瓶】が何故、彼らの手に持たされていたのか――追及しようとはしない。 (それは……人の死さえも――この野次馬根性で集まっている守子達にとっては……単なる暇潰しにすらならないということ……憐れむような素振りをしても本心では話の種ができて心の中でほくそ笑んでいる……なんと、なんと――恐ろしい……) その事を改めて思い知らされた私は――余りの恐怖に耐えきれず、その場から脱兎の如く走り去った。 あの双子の兄弟が惨たらしい最後を遂げた事に対して――私自身も【喜び】を感じていると悟ったせいだ。私と魄に危害を加えようとしている輩が減った――という事実が、私の中で兄弟が惨たらしい最後を遂げたという事実さえ遥かに上回っているとはっきりと自覚したからだ。 はあ、はあ――と霧のように白くもやもやしている息を吐きながら、ひたすら走った私がたどり着いた場所は今は真っ白な雪化粧に覆われた桜の木の下だった。

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