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やがて鬼となる母と魄と名付けられた息子との徒然なる日々――【冬の月】
――ざくっ……ぎゅっ……ぎゅ……ざく……
そうして私が雪化粧に覆われて儚いと思わせす程に様変わりした桜の木を見上げ、どのくらい経った時分だっただろうか――。
不意に、すぐ側から雪の絨毯を踏み締めながらゆっくりと背後から私に近づいてくる足音に気付いた。
(この足音は――聞き慣れない歩き方の足音だ……とすると、木偶の童子ではなく……ましてや魄でもない……大方、まだ狂善が私をからかいにっ……)
と、得たいの知れぬ足音を聞き取った事からくる不安と恐怖に押し潰されそうになりながらも――私は恐る恐る後ろを振り返った。
「尹様……ああ、此方にいらしたのですか……魄から聞いた通りでした……さあ、あなた様の悩みの種の一つは――俺が排除しました故、魄の元へ戻りましょう……」
真っ先に私の目に飛び込んできたのは――恐ろしく顔を歪めた夜叉の面。
そして、その次に私の耳へ入ってきたのは――心の底から心配しているかのような素振りで私にひそっと囁きかける翻儒の氷の如く冷たい声だった。
「……魄が――お気に入りの独楽が二つも同時に無くなった……といって大騒ぎしておいでなのです……きっと――あなた様の慰めの言葉であれば機嫌を直すに違いない……ですから、」
「ま、まさか……まさか……あなたが――あの二人を……血の繋がりのある兄弟を……手にかけ…」
「え……?何を言っておいでですか……尹様、私は新たなる家族の為に――奮闘しているのですよ?ようやく、一仕事終えて……今はとても清々しい気分なのです――それは、貴方とて同じではないのですか?」
にこり、と夜叉の面を外した翻儒が口元を歪めながら笑う――。
そして、それに釣られるかのように無意識のうちに私も笑っていた――のだった。
私は――そんな些細な出来事よりも重要なこじらせつつある魄との仲を何とか修正させなければ――と思い直すと桜の木の真下に座っていた腰を上げてから周りいるかもしれない野次馬根性に支配された愚かな守子達の目に触れぬよう翻儒とは別々で魄と木偶の童子が待っている寝所へと戻って行くのだった。
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