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やがて鬼となる母と魄と名付けられた息子との徒然なる日々――【冬の月】

◇ ◇ ◇ ◇ あの双子の兄弟の唐突なる死は……私の予想通り、王命により隠蔽され――時が経つ内に徐々に人々の心から消えかけていった。 かくも、人の心というのは……季節によって咲き誇る花のように移り気で、或いは万華鏡の模様模様の如く――ころ、ころと様変わりしていく。 今朝も、しんしんと雪が静かに降り続けて地面を徐々に覆い尽くしていく――。 「魄……あなたは何時まで私の言う事を聞かないつもりですか?朝の挨拶くらいなさい……と私は以前から口を酸っぱくして教えた筈です……それと、人が話している時は真っ直ぐ相手の顔を見なさい!!」 「……っ…………!?」 つい、朝から鬼の形相を――愛しい魄へと向けてしまい、しかもあろうことか厳しく怒鳴りつけてしまった。その余りの私の剣幕に、朝御飯の支度をしていた木偶の童子とその手伝いをしていた翻儒が慌てて此方を見つめてきた。 「…………」 「魄、あなた……最近、おかしいですよ――何故、私から顔を背けるのですか……何故、口くら聞こうとしないのですか……母の目を見て答えなさい、魄!!」 ――ぐいっ……! と、そうまで言っても無言のまま下を向き俯いている魄に対して思わず、むきになってしまった私は彼の腕を少し強めに掴んでしまう。 そのせいで魄が身に付けている着物の裾が、はらり……とはだけかけ、僅かに彼の手首付近が丸見えになってしまう。 「は、魄……あなた……これ、如何いたのですか?」 「……っ……な、何でも――何でもありません……母上……これは……平気ですからっ……」 魄の手首付近に――幾つか痣があった。おそらく、少し前に出来たのか既に黒ずみかかっている。 それを目にした途端に、はっ――とある事が思い浮かんでしまった私は真っ青になり息を飲んだ。 私に奇異の目線を受けている守子か――もしくは、その息子らから……痛め付けられたのだという、おぞましい考えが私の頭の中を支配し――ぐる、ぐると目まぐるしく回り続けるのだった。

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