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やがて鬼となる母と魄と名付けられた息子との徒然なる日々――【冬の月】

私の背後から――ひた、ひたと鬼が忍びよる足音が聞こえてくる……ような気がした。 今まで必死に抑え込んで圧縮させていた筈の、私の怒りや憎しみといった負の感情が収められている【疑心暗鬼という箱】が開かれるのも……時間の問題だと薄々感じてはいたが、今――ここにきて魄の腕に付けられた幾つかの黒ずんだ痣を目にした途端に言い様のない程に凄まじい負の感情が私を支配したのだ。 もはや、怒りや憎しみなどという生ぬるいものではない。 「は、母上……母上、如何なさったのです?これは……私が転んで打って出来たものです……ですから、大丈夫……」 「…………」 ああ、この子は―――こんなにも嘘をつくのが下手なのかと私は思ったと同時に、その弱々しさと優しさから胸を撫で下ろす。 (魄……口では大丈夫と言っておきながら……眉は下がりきっているし、なによりも涙ぐんでいる事に気付かないとは……なんと母思いであり、優しい子なのか……やはり、私は――これからの私は私なりのやり方でこの子を守らなくては……) 「……魄、これからは転ばないように気をつけるのですよ?それよりも、大事な独楽が二つも同時になくなったようですね。今日も雪が沢山降っています……どうです、これから皆で雪だるまでも作って遊びませんか?」 油断をすれば今にでも開きそうになっている【疑心暗鬼の箱】を再び無理に閉じた私は――にこり、と出来る限り穏やかな笑みを浮かべつつ目を輝かせる魄と木偶の童子――それに今後私の新たなる理解者となるであろう翻儒へと提案するのだった。
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