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やがて鬼となる母と魄と名付けられた息子との徒然なる日々――【冬の月】
――ぎゅうっ……
「なにゆえ、我が魄の父親となることを拒み続ける……我はずっと……お主らの事を心配し――遠くから見つめていたというのに。我が――新たな父親にさえなれば、見守るだけでなく、この手で……父親として魄に危害を加える輩に鉄槌を下す事もできるというのに――お主は、何故……我を受け入れぬのだ?」
「そ、それは……それは……っ……」
――私の体を抱き寄せながら、狂善は今までに見たことがない程に切なそうに眉を寄せつつ、僅かに遠慮しているような口調で尋ねてくる。
つう、と――彼の頬に一筋の涙が流れ落ちる事に気が付いた私は一瞬、蝋燭の炎が風に吹かれて揺らぐかの如く――その問いかけに対しての答えに迷ってしまう。そして、僅かに罪悪感を抱いてしまったが意を決して口を開く。
(確かに狂善は心底から悪い男というわけではないし、魄の父親となれば――きっと魄を大事にしてくれるだろう……しかし、それでも……私は――あの御方が……)
「申し訳ありません……狂善――やはり、私には貴方以外に――心から愛する御方がいるのです……私は、あの御方を――ずっと待ち続けます」
「――そうか、それなら……仕方があるまいな。では、我は潔く諦めるとしよう。そうだ、最後に……我が魄に贈った金魚達は元気で泳いでいるか?」
「はい、御安心下さい。魄が世話しているお陰で元気に泳ぎ回っています……ありがとうございました……狂善、どうかこれからも――魄を見守っていてくださいませ」
涙ぐみながら狂善は――無理に笑顔を作って私に尋ねてきたため、私も出来る限りの満面の笑みを浮かべながら彼へと答えたのだ。
※ ※ ※ ※
時の流れとは――残酷なものだ。
これから彼が私にとって醜悪な存在の黒子なる人物に出会わずに、あの時のままの本当は優しい狂善でいてくれたのならば――鬼となった私が狂善の命を奪うという最悪な事態は避けられていたかもしれないのに――。
いや、それはまた別の話しとなるので此処で語るのは止めにするとしよう――。
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