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やがて鬼となる母と魄と名付けられた息子との徒然なる日々――【冬の月】

◇ ◇ ◇ ◇ ――私には、今やらなくてはならない事が二つある。 一つ目は私を散々淫乱な犬と罵り、双子の息子共々――むしゃ、むしゃと獣の如く喰らった忌まわしいあの爺を始末する事――。 そして、二つ目は…… (本来であれば、これだけはしたくはなかったが――やはり、どうしてもしなければいけない……魄の中から……私という存在の一部分を消し去らなくては……優しく気弱なあの子は、きっと私とのあの約束を……私の名を呼ばないという約束を守らないだろう――) ぎゅっ……ぎゅっ……ざくっ……ざく…… どんどんと降り続きく雪にまみれて白い鬼となった私は――眠りこけている魄を抱えながら闇夜を歩いて行く。 ある事をする為に――【祝寿殿】へと向かって、雪の上をひたすら歩いて行く。 いつの間にか――大きくなって両腕に抱える事すら辛くなった魄の寝顔を見て、嗚咽を漏らしながらも――とうとう【祝寿殿】へと辿り着いてしまった。 これで魄の記憶の中から私が彼の母だという事も、現王である桜獅が父親だという事も――いつも側で見守っていた木偶の童子という存在も、幼なじみの翻儒という存在も消える事だろう。 むろん、すべて完璧に消えるかどうかはわからない。運命の悪戯で、一部分はぼんやりと魄の記憶に残るのかもしれないが――これだけは、魄の母が私だという事だけは完璧に消え去るように術師に頼み込まなければいけない――と、固く決意をして【祝寿殿】の重い扉を開けるのだった。 ※ ※ ※ ※ ――真綿のように真っ白な雪の上に赤く咲き誇る椿の花びらのような血の飛沫が舞い散る。 ――私を散々淫乱な犬だと罵っていた爺は呆気なく雪に埋め尽くされた地面の上に倒れる。 そんな光景を――私と今まで被っていた般若面を外してから慣れた手つきで日本刀を仕舞う翻儒が――無表情で見下ろす。 「――尹様、俺は……これからも貴方様の悩みの種を消し去らるために精進します……ですから、これからも――宜しくお願いいたします」 「ええ、私こそ……宜しくお願いしますよ――共犯者……いいえ、私の第二の息子……翻儒――」 (完)

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