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王と王妃と白い鬼の息子との徒然なる日々――【春の月】

「実は――この尹儒と他の子らの誕生を祝う雄雛祭に身に付ける着物を作っていたのですが、中々上手く出来なくて。宮中で裁縫上手だと評判の方に教えを請おうとしていたのですが……あまりにも桜が綺麗なもので尹儒と共に夢中で見入っていたのです。そうしたら、不意に貴方様のお姿が見えたため――こうしてお声をかけたのです」 「――そうか、雄雛祭はもう直ぐであったな。それにしても――宮中で裁縫上手な者とは一体、誰の事だ?」 いくら頭の硬い老人らから【張りぼての新王】と囁かれているとはいえ、れっきとした一国の主である我が――嫉妬いう一国の王にあるまじき劣悪な感情に捕らわれてしまった。 (なんということだ――このように無様な面を易々と晒すから、我は頭の硬い老人らだけでなく他の守子達に信用されきっていないのだ……きっと、目の前にいる魄も……我を情けなく思っているに違いない……) ――我は今、どのような顔をしているのだろうか。 下らない嫉妬に狂い、鬼のような形相をしているのか――。 【張りぼての新王】と周りの守子達から揶揄され、蜘蛛の巣に引っかかった蝶のように慌てふためいて怯える形相をしているのか――。 「燗喩様、燗喩様――どうされたのです?怖い顔をなさって……ああ、裁縫上手だと評判なのは世純様ですから――どうか誤解なきように」 にこり、と微笑みながら新王の器に相応しいのかさえ疑わしい我に対しても王妃である愛しい魄は優しい言葉をかけてくれるのだ。 「あー……あう……きゃははっ……あー、あー…」 そんな母である魄の様子に反応したのかは定かではないが、不意に魄の腕に抱かれていて今まですやすやと眠りについていた尹儒がぱちっと目を覚まし――その小さな紅葉のような開ききった手を我に対して必死に伸ばしてくるのだった。

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