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王と王妃と白い鬼の息子との徒然なる日々――【春の月】
「尹儒も……暫く会わない内にすくすくと成長したものだ――我の手をこのように小さな紅葉のような手で必死で握り返してくるとは――。そうだ、これから世純の部屋に参るのであろう?我も共に行く――そして、我と共に尹儒に着物を作ってやろうではないか」
「それは……私としては非常に嬉しい事ですが……王としての公務は平気なのですか?後になって皺寄せが来てしまうのでは?」
――ぎゅうっ……
僅かばかり不安げになる魄から、久方ぶりに尹儒の身を己の方へ抱き寄せると――産まれたばかりよりも遥かに重く、大きな体となった我が子の成長ぶりに驚いた。普段はこのように尹儒の身を長時間抱き締める事など滅多に出来ないため、我は未だに赤ん坊特有の甘い香りを放つ尹儒の体を抱き締めつつその成長ぶりを堪能するのだ。
と、そのような事をしている内に――尹儒の可愛らしい微笑みを見ている内に、ある思いが我の頭の中を支配した。
いくら【張りぼての新王】と頭の硬い老人らから揶揄されようが、周りの者達から【前王と録に血の繋がりがない癖に新王となった男】と奇異な目で見られようが――我は目の前にいる魄の夫であり、また楽しげに我に微笑みかけてくる尹の父なのだ――。
(このように――くよくよしている場合ではない――我は何としてもこの愛しい宝物である家族を守る大黒柱とならなくては……)
ふっ――と辺りから視線を感じる。
その方向にいたのは、正に我を【張りぼての新王】と揶揄した頭の硬い老人らであり、しかもおぞましき事に美しい魄の体を狙っていると、もっぱらの噂の醜悪なる輩達だった。
どうせ――尹儒と戯れている我を、またしても【張りぼての新王】と揶揄してある事ない事、噂しているのだろう。
「――さあ、そろそろ行こう……きっと世純が我々を待ちわびて――眉間に皺を寄せているに違いない」
「は、はい……あの、このように私達との逢瀬のために時間を割いて下さって……ありがとうございます、王様」
家族だというのに遠慮がちな様子で我に礼を言う魄に向かって笑みを浮かべてから、久方ぶりに家族揃って、我々を待ちわびつつ鬼の様な形相をしているに違いないであろう神経質な世純の部屋へと向かうのだった。
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